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SBTiが企業ネットゼロ基準V2.0を公開、実装フェーズへの転換鮮明に

2026.06.15 読了 約5分
SBTiが企業ネットゼロ基準V2.0を公開、実装フェーズへの転換鮮明に
出典:イメージ

SBTiは6月11日、企業ネットゼロ基準(Corporate Net-Zero Standard)の改定版となるバージョン2.0を公開した。単一の目標設定モデルから事業実態に応じた選択肢群へと枠組みを広げ、目標の設定そのものよりも実装と進捗の継続的改善に軸足を移した点が最大の特徴である。

SBTiは今回の改定を、野心の表明から現実の実装へ移行する「次の段階」と位置づけている。

1万1,000社超の目標設定を支援してきた約10年の知見を反映し、基準設定機関から実装パートナーへと自らの役割を転換させる狙いが鮮明だ。デビッド・ケネディ(David Kennedy)CEOは、企業が求めているのは実装を後押しできるパートナーであり、V2.0はその要請に応えるものだと述べている。

同基準に基づく検証(validation)の受付開始は2027年初頭を予定する。改定版は2回の公開協議、パイロット試行、専門家ワーキンググループの検討を経て、独立した技術評議会の承認と理事会の採択を受けた。

実装重視への転換と柔軟化

改定版は、直接的な排出削減を最優先とする実装ヒエラルキーを維持する。自社の事業とバリューチェーンにおける削減を起点とし、直接的な脱炭素が困難な領域についてはシステム変革を促す介入で補完する構成をとる。

目標達成については「ベストエフォート」型の考え方を新たに導入した。企業の管理を超えた外部要因が進捗に影響しうることを認め、実装上の障壁と緩和策を透明に開示し続ける限り、SBTiの枠組み内にとどまってネットゼロへ前進できるとする。

継続排出への対応も再設計された。短期的には自主的な行動を促す任意の認知メカニズムを設け、長期的には大企業に対し残余排出への段階的な責任を求める。中小企業や低所得国の企業には別途の配慮を組み込み、年次報告と定期的な進捗評価による継続的改善の循環を基本構造に据えている。

除去系カーボンクレジットの位置づけ

除去系を含むカーボンクレジットの扱いについて、改定版は高品質カーボンクレジットや気候貢献を「削減の補完であって代替ではない」と明確に位置づけた。自主的な認知プログラムを通じて、残余排出に対する企業の自発的な行動を評価する枠組みである。

DAC大手のクライムワークス(Climeworks)のクリストフ・ゲバルト(Christoph Gebald)CEOは、今回の改定を炭素除去に対するより実務的で構造化されたアプローチと評価した。ISOとの整合と、Scope3における除去の責任分担という新概念が、企業が除去を戦略へ組み込む際の明確さをもたらし、バリューチェーン全体での行動を後押しするとの見方を示している。

カーボン・ビジネス・カウンシル(Carbon Business Council)のベン・ルービン(Ben Rubin)事務局長も、炭素除去への投資を検討する企業に重要な明確さをもたらし、短期の投資判断と長期の調達契約の双方を正当化すると述べた。ルービン事務局長は、各国政府が調達プログラムや投資インセンティブ、規制市場への炭素除去の組み込みを通じてこの自主的な動きを補完しうるとも指摘している。

基準の正当性をめぐる論点

一方で、改定版には懐疑的な見方も示されている。カーボンクレジット格付の主要機関であるビーゼロ・カーボン(BeZero Carbon)のトミー・リケッツ(Tommy Ricketts)CEOは、世界全体の温室効果ガス排出の約25%の扱い方を一民間イニシアチブが定義する権限そのものに疑問を呈した。

リケッツCEOの主張は、企業の自主的行動を実質的に促す仕組みか、政策当局による義務化のいずれかが必要であり、新指針はそのどちらでもない、という点に集約される。ベストエフォート型の柔軟化が科学的厳格性と実効性の双方を緩めるのではないかという懸念と通底する論点である。

編集部の視点

V2.0はSBTiが自らを実装パートナーへと再定義する構造転換であり、本誌読者にとって最も重要な変化は、除去系カーボンクレジットが任意の認知プログラムという形で初めてネットゼロ設計の中に明示的な居場所を与えられた点にある。除去系の調達が灰色地帯から制度上の位置づけへ移行した意味は小さくない。

ただし、柔軟化は両刃である。ベストエフォート型と任意の認知は枠組みへの残留を容易にする反面、残余排出への責任の拘束力を弱める。リケッツCEOが示した「ボランタリー強化か義務化か」の二者択一は、どちらにも振り切れない自主基準が中途半端な位置に留まるリスクを突いている。認知メカニズムが高品質な除去系への実需に転化するか、それとも評判上の選択肢にとどまるかが、本基準のカーボンクレジット市場への影響を左右する。

日系のSBT認定企業の多くは既存の目標を当面維持できるが、残余排出と除去調達の位置づけは確実に変わる。日系企業各社にとっては、認知プログラムをオフセット容認の許可証とみなすのではなく、2027年の検証開始までに除去調達戦略を再設計できるかが実務上の論点となる。

参考:https://sciencebasedtargets.org/news/the-sbti-releases-corporate-net-zero-standard-v2-0-to-accelerate-corporate-climate-action

関連タグ CDR SBTi
カーボンクレジット.jp 編集部
カーボンクレジット.jp編集部|2023年末に当時日本初かつ唯一のカーボンクレジット専門情報メディアを立ち上げ。高度な専門性とわかりやすさを追求した翻訳力。