ARR(植林/再植林)とは?詳しくてわかりやすい用語解説|What Is Afforestation and Reforestation?

村山 大翔

村山 大翔

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気候変動対策と聞いて、多くの人がまず思い浮かべる活動の一つが植林であろう。この植林(Afforestation/Reforestation : ARR)は、自然の力を活用した最も代表的な自然に基づく解決策(Nature-based Solutions : NbS)の一つであり、大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収する重要な役割を担う。

本記事では、国際開発と気候変動ファイナンスの視点から、植林が単なる環境美化活動ではなく、いかにして開発途上国の持続可能な開発を支え、カーボンクレジットを通じて新たな資金を動員し、公正な移行を実現するための鍵となりうるのかを解説する。

植林と再植林の違い

一言でいうと、植林とは「人間が木を植え、育てることで、新たに森林を作り出す、あるいは失われた森林を再生させる活動全般」を指す。

ただし、国際的な議論では、その土地の過去の状況によって、主に二つの言葉が使い分けられる。

  • 植林(Afforestation)
    長期間にわたって森林ではなかった土地(草原や荒廃地など)に、新たに森林を造成すること。「新規植林」とも訳される。
  • 再植林(Reforestation)
    過去に森林であったものの、伐採や災害などによって森林が失われた土地に、再び森林を回復させること。

この違いを「家の建築」に例えると、「植林(Afforestation)」は、何もない更地に新しく家を建てるようなものである。一方、「再植林(Reforestation)」は、火事で焼けてしまった家を、元の場所に建て直すことに似ている。どちらも「家(森林)を造る」という点は共通するが、その出発点が異なる。

重要性の解説、多岐にわたる役割

植林は、気候変動対策と持続可能な開発を結びつける上で、多岐にわたる重要な役割を果たす。

炭素隔離

森林は、光合成を通じて大気中のCO2を吸収し、幹や枝、根、そして土壌の中に炭素として長期間貯留する。植林は、この自然の炭素吸収源を創出・回復させることで、気候変動の緩和に直接的に貢献する。

資金動員

植林プロジェクトによるCO2吸収量は、検証を経てカーボンクレジットとして発行され、カーボンクレジット市場で売買される。これにより、民間企業からの資金が途上国の森林セクターに流れ込み、プロジェクトの持続可能性を高めることが可能となる。

豊かなコベネフィットの創出

植林はCO2吸収以外にも、生物多様性の保全、土壌侵食の防止、水源涵養機能の向上、地域の気候緩和といった、多くの環境的・社会的便益をもたらす。

公正な移行と生計向上

植林プロジェクトは、苗木の育成、植え付け、森林管理といった過程で、地域コミュニティに新たな雇用機会を提供する。また、果物や木の実、持続可能な木材といった林産物を通じて、地域住民の生計向上に貢献し、より公正で包摂的な開発を実現する可能性を秘めている。

仕組みや具体例、多様な植林アプローチ

一口に植林といっても、その目的や手法は様々である。

産業植林

主に木材や紙パルプ、バイオ燃料といった商業的な林産物の生産を目的とする。ユーカリやアカシアなど、成長が速い単一の樹種を整然と植えることが多い(モノカルチャー)。経済効率は高いが、生物多様性の観点からは課題が指摘されることもある。

環境再生・保全林

地域の生態系の回復、生物多様性の保全、土壌や水源の保護を主目的とする。その地域に元々生育していた多様な在来種を組み合わせて植栽する。生態系としての機能回復には時間を要するが、持続可能性は高い。

アグロフォレストリー

農業と林業を融合させ、同じ土地で樹木と農作物を同時に育てる手法である。樹木が日陰を作ったり、土壌の栄養を豊かにしたりすることで、農作物の安定生産に貢献する。食料安全保障と気候変動対策を両立させるアプローチとして、特に途上国で注目されている。

具体例、ケニアのグリーンベルト運動

ノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイ氏が始めたこの運動は、女性たちが中心となって苗木を植え、森林破壊を食い止めると同時に、薪の確保や生計向上、女性の地位向上といった多くの社会的課題を解決した。これは、コベネフィットの多い植林活動の象徴的な成功例である。

メリットと課題

植林は大きな可能性を秘める一方で、その実施には慎重な計画と配慮が求められる。

メリット課題
比較的低コストで実施可能
特に途上国では、他の技術的な対策に比べて、比較的安価に大規模なCO2吸収を実現できる可能性がある。
永続性のリスクと時間
植えた木が成熟し、十分な炭素を吸収するには数十年単位の時間がかかる。その間に火災、病害、違法伐採などで失われるリスク(リバーサルリスク)がある。
大きなコベネフィット
生物多様性、水資源、土壌保全、地域経済など、気候以外の多岐にわたるポジティブな効果が期待できる。
土地利用を巡る対立と権利問題
植林地の選定において、元々その土地を利用していた地域住民や先住民の権利を侵害する可能性がある。公正な移行の観点から、事前の合意形成が不可欠である。
市民参加のしやすさ
木を植えるという行為は、専門家でなくても参加しやすく、気候変動対策への市民の意識を高める上で効果的である。
不適切な植林による生態系への悪影響
地域の生態系に合わない外来種を植えたり、草原などの元々森林ではなかった生態系を破壊して単一樹種の植林を行ったりすると、かえって生物多様性を損なうことがある。

まとめ

植林は、正しく計画・実行されれば、気候変動の緩和と途上国の持続可能な開発を同時に実現する、強力なツールである。重要なのは、「ただ木を植えれば良い」という単純な発想ではなく、どの土地に、どの樹種を、誰が、どのように植え、そしてどう育てていくのか、という長期的な視点を持つことである。

  • 植林は、新たに森林を造成(Afforestation)、あるいは失われた森林を再生(Reforestation)する活動である。
  • CO2の吸収源となるだけでなく、生物多様性保全や地域住民の生計向上といった多くのコベネフィットを生み出す。
  • カーボンクレジットを通じて民間資金を動員するポテンシャルを持つが、その価値は永続性の確保にかかっている。
  • 成功の鍵は、科学的知見に基づいた計画と、地域コミュニティの権利を尊重し、彼らが主体的に関わる公正なプロセスにある。

植林が真に持続可能な解決策となるためには、短期的な炭素吸収量だけを追うのではなく、そこに根付く生態系と人々の暮らしを豊かにするという、長期的で全体的な視点が不可欠である。