スカイツリー(Skytree)は2026年6月3日、直接空気回収(DAC)の商業機「ストラタス(Stratus)」をオランダの施設園芸クラスターへ初めて商業導入すると発表した。地域エネルギー企業リンゲゼーヘン・エナジー(Lingezegen Energy)との提携で、大気から回収した化石燃料由来でないCO2を作物栽培向けに供給する。
同案件は年間約7,200トンの大気中CO2を回収し、80ヘクタールにわたる10棟の施設園芸へ供給する計画である。回収したCO2は、浮体式太陽光発電や蓄熱を含むリンゲゼーヘン・エナジーの再生可能エネルギー基盤に直接統合される。
化石燃料由来CO2への依存からの転換
施設園芸ではCO2施用が作物の収量と品質を左右する。従来の供給源である産業由来の液化CO2は、脱炭素の進展に伴って供給が不安定化し、価格も高騰している。本件は、需要地でCO2を直接生成する分散型の供給網を構築することで、この調達リスクに対応する。
ストラタスは需要家拠点でCO2を回収・供給するため、液化CO2の価格高騰や供給不足、規制強化に直面する事業者を主な対象とする。施設園芸のほか、合成燃料製造や飲料・食品分野での利用が想定されている。
スカイツリーCEOのロブ・ファン・ストラーテン(Rob van Straten)は、循環型の大気由来CO2が将来構想ではなく、今日利用可能な経済的選択肢になったと位置づけている。
移動床方式による電力効率
ストラタスは、吸着と脱着の工程を物理的に分離する自家開発の移動床方式を採用する。低品位の熱(80度以上)を加熱負荷の80%に充当することで、CO2回収1トンあたりの電力消費を最小0.9MWhに抑える。スカイツリーはこれを、需要地での回収の経済性を成立させる水準と位置づける。
AI制御により大気状態を常時監視し、マイナス35度から50度の範囲で季節変動を±5%以内に保つ。単機の回収能力は1日あたり2.5トンからで、モジュールを連結して任意の規模へ拡張できる。
除去ではなく利用という位置づけ
本件で回収されるCO2は施設園芸で消費され、作物の生育過程を経て大気へ戻る。回収したCO2を資源として循環利用する事業であり、炭素除去を主目的とはしない。
スカイツリーにとっては、研究開発・実証から商業製造への移行を示す初の商業案件であり、DACの用途を貯留前提の除去から需要地での供給へ広げる動きの一例といえる。
編集部の視点
本件は、需要地でのCO2供給という用途が商業段階へ到達したことを示す一里塚と捉えるのが妥当である。年間7,200トンという規模は限定的であり、市場全体の構造を動かす段階にはない。
構造的に注目すべきは、CO2供給を化石燃料の燃焼から切り離し、需要地で完結させる分散型モデルが成立しつつある点である。産業用CO2の調達はこれまで集中型の化石燃料由来供給に依存してきた。その代替として、供給安定性とバンカビリティを備えた分散型供給網が実装され始めたことに、本件の固有の意義がある。
