米カリフォルニア州アラメダ発。直接空気回収(DAC)技術スタートアップのエアキャプチャー(Aircapture)と、同州のクラフトビールメーカー、アルマナック・ビア・カンパニー(Almanac Beer Co.)は2026年3月21日、世界初となる「大気中から回収したCO2で炭素化した商業ビール」の販売を開始した。
製品名は「フロー・クリーン・エア・エディション(Flow – Clean Air Edition)」。醸造所に設置したモジュール式DACシステムを活用し、化石燃料由来の外部CO2サプライチェーンへの依存を断ち切る新モデルを実証した。
エアキャプチャーのモジュール式DACユニットは、アルマナックのアラメダ醸造所に既存の製造設備と統合される形で設置された。大気中からCO2を直接回収し、飲料グレード(純度99.999%)に精製したうえで醸造工程に供給する仕組みだ。この純度は業界標準仕様を大幅に上回る。大規模なDACプロジェクトが数年単位の建設期間と数百億円規模の設備投資を要するのとは対照的に、本システムは新設施設や専用インフラを必要とせず、数週間以内に稼働を開始した。
食品・飲料製造業にとって、CO2は炭酸化に不可欠な原材料である。しかし、その供給のほぼ全量がアンモニアやエタノール製造といった化石燃料関連の工業プロセスに依存しており、2022年には全米規模のCO2供給不足が発生。醸造業を含む食品加工業者は操業停止リスクとコスト上昇に直面した。
エアキャプチャーの最高経営責任者(CEO)兼創業者、マット・アトウッド(Matt Atwood)氏は「CO2は今まで燃料・化学品製造の副産物として扱われてきたが、大気から高純度のCO2を需要地で直接製造し、事業者にとって採算の合うコストで供給することが可能になった。
これは数百億ドル規模に上るグローバルCO2サプライチェーンの転換が始まる合図だ」と述べた。アルマナックのCEO、ダミアン・フェイガン(Damian Fagan)氏も「直接空気回収(DAC)を製造工程に組み込むことで、主要原材料の調達を根本から見直し、炭素除去(CDR)の取り組みにも貢献できる」とコメントした。
現在、アルマナックの製品のうち同システム由来のCO2を使用する割合は20%にとどまるが、1年以内に100%への移行を目標としている。また、フロー・クリーン・エア・エディションの売上の一部は、米国における炭素除去(CDR)政策の普及・推進を目的とする非営利団体、カーボン180(Carbon180)に寄付される。製品はアラメダ醸造所のほか、セーフウェイ(Safeway)、ホールフーズ(Whole Foods)、ベブモ(BevMo)などカリフォルニア州内800以上の販売店で入手可能だ。
従来、DACを含む炭素回収・貯留(CCS)や炭素回収・利用・貯留(CCUS)は大規模集中型インフラとして語られることが多かった。今回のケースは、モジュール式DACが飲料、食品、農業、冷凍・冷蔵、コンクリート製造など多様なセクターで分散型の炭素回収・利用(CCU)モデルとして機能し得ることを実証した。大気中のCO2を「工業原材料として現地生産・循環利用する」という概念が、商業規模での実現可能性を示した点で、DAC産業の展開シナリオに新たな選択肢を加えるものである。
食品・飲料業界という意外な文脈でのDAC商業化は、炭素回収・利用(CCU)の応用領域が技術系産業にとどまらないことを示す実例として注目に値する。
J-クレジット制度やGX-ETSが本格稼働するなかで、国内の食品・飲料セクターがDACをはじめとする技術由来の炭素除去(CDR)ソリューションをサプライチェーン戦略に組み込む事例が登場するか、引き続き注目したい。