パリ協定6条4項(PACM)に基づき世界で初めて発行されたカーボンクレジットが、ミャンマーの軍事政権が統制する省庁を実施主体とする事業から生み出されていたことが、市民社会組織の連合がまとめた報告書で明らかになった。
連合は6条4項の監督機関に対し、当該カーボンクレジットの発行・移転・利用の即時停止と独立調査を求めている。
報告書「Carbon Credits Under Fire」は、ミャンマー政策研究所(Myanmar Policy Institute)、グローバル・フォレスト・コーリション(Global Forest Coalition)、韓国のNGOプラン1.5(Plan 1.5)などが共同で作成した。対象は、ミャンマーで改良型クックストーブを配布する事業であり、2026年2月に6条4項下で世界初のカーボンクレジット発行に至った案件である。
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事業の核心的な問題は、検証が成立しない環境で実施された点にある。
実施地はミャンマー中部乾燥地帯のザガイン地域を含む。同地域は2021年2月の軍事クーデター以降、抵抗運動の中心地となり、空爆・砲撃・大規模な住民避難が続いている。治安上の理由から監査人は現地調査を実施できず、遠隔での聞き取りに依存したと報告書は指摘する。
報告書は、こうした現地の実態が事業文書にほとんど反映されておらず、当該環境下で事業の実施・監視・検証が成立しうるのか根本的な疑問が残ると論じている。
排出削減量の計上についても、過大との分析が複数示されている。独立した分析によれば、旧CDM下では14倍超の過大発行とされ、6条4項下でも約7倍の過大クレジットが見込まれるという。
6条4項の方法論では旧CDM比で発行量が40%削減されたものの、それでもなお発行量は過大と評価される。クックストーブの使用率に関する前提や検証手続きの限界が、計上の信頼性を損なっているとされる。
実施主体であるミャンマー天然資源・環境保全省(MONREC)は、2021年のクーデター後も事業活動に責任を負い続けた。同省を実施期間の大半で統括した大佐キン・マウン・イー(Khin Maung Yi)は、軍事政権の資金・支援に寄与したとして2021年6月にEUの制裁対象となった人物である。
軍政トップのミン・アウン・フライン(Min Aung Hlaing)には、人道に対する罪をめぐり国際刑事裁判所が逮捕状を請求している。
連合は、こうした統治構造の下で発行されたカーボンクレジットを「高品質」と呼ぶことはできないと主張し、6条4項初号案件の欠陥が制度全体の信頼性を問うものだと位置づけている。
当該カーボンクレジットは、韓国の排出量取引制度(K-ETS)を通じて取引された実績がある。報告書は、信頼性への懸念がミャンマーと国連市場にとどまらず、これを利用する国・主体の調達基準にも及ぶと指摘する。
報告書の公表は、6条の実施が議論されるボンでの国連気候交渉と重なった。
本件の実質的な争点は、軍事政権との関与という統治上の問題以上に、紛争下で現地検証が成立しない案件にカーボンクレジットが発行された点にある。約7倍とされる過大クレジットは、検証可能性を欠いたまま排出削減量が計上された結果であり、MRVの実効性が崩れた状態を端的に示す。
ただし、これを6条4項という制度設計そのものの破綻と直結させるべき事象ではない。旧CDM比で発行量を40%削減した運用は、制度が過大クレジットを抑制する方向に働いた事実を示している。
論点は、紛争地という検証不能環境において案件適格性の審査が機能したかに収斂する。初号案件が浮き彫りにしたのは、方法論の精緻化だけでは、現地アクセスを欠く環境でのカーボンクレジット品質を担保できないという、案件選定段階の課題である。