英国の生物多様性ネットゲイン市場、2042年目標の約5分の1を担う規模に拡大

カーボンクレジット.jp 編集部

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英国で自然回復事業を手がけるナッタガル(Nattergal)は、同国のオフサイト型生物多様性ネットゲイン(BNG)市場が現行の成長ペースを維持した場合、2042年までに8万ヘクタール超の自然生息地を保護しうるとの分析を公表した。これは政府が法的拘束力ある公約として掲げる「2042年までに50万ヘクタールの野生生物豊かな生息地を回復・創出する」という目標の約5分の1に相当し、しかも公的資金を一切用いずに達成される見込みだという。

2年で200倍超に拡大した市場

オフサイト型BNG市場は短期間で急拡大している。2024年2月時点では32ヘクタールの1サイトのみだったが、2026年1月には215サイト・7,410ヘクタールに達した。8万ヘクタールという将来推計は、この拡大ペースを2042年まで線形に外挿したものである。

ナッタガルのアーチー・ストラザーズ(Archie Struthers)最高経営責任者は、2年前には存在しなかった市場が、現在では湖水地方に匹敵する規模の自然生息地を公費を投じずに回復させつつあると述べた。

背景には、イングランドで自然のため実効的に保護されている土地が現状わずか2.8%にとどまり、目標達成が大きく遅れているという事情がある。政府は目標達成を民間資金に依存せざるを得ず、BNG市場はその差を実際に埋めつつある数少ない政策手段とされる。

義務化が需要を生む市場設計

BNG制度は、新規開発に対し着工前比で最低10%の生物多様性向上を義務付ける。開発地内で達成できない場合、事業者はオフサイトの提供者から生息地ユニットを購入し、英国内の別の場所で生息地を回復させる。これがオフサイト型BNGであり、市場は公的補助ではなく開発事業者の需要によって完全に自律的に成り立っている。

需要の源泉が寄付や自主的コミットメントではなく法的義務に置かれている点が、この市場の構造的な特徴である。

制度の後退と市場の頑健性

政府は2025年12月、0.2ヘクタール未満のサイトを制度の対象から除外する措置を導入した。これにより住宅開発申請の約半数が適用外となったが、市場の拡大基調は崩れていない。

市場価値は2035年までに約30億ポンド(約6,400億円)に達するとの業界試算がある。さらに2026年11月には、国家重要インフラ事業(NSIP)にもBNG義務が拡大される予定である。インフラ事業への適用は、洪水リスクの低減や大気質の改善を含め、10年間で4億3,000万ポンド(約920億円)超の便益を生む可能性が指摘されている。

編集部の視点

本件は英国BNG制度の順調な進展を示す定点報告であり、義務化を需要の源泉に据えた市場設計が機能しうることを実証する事例として位置づけられる。

需要を開発許可の前提条件に組み込んだことで、市場は景気変動や企業の裁量に左右されにくい構造を獲得した。適用範囲を縮小する制度の後退を経てもなお拡大が続いた事実は、義務化を基盤とする市場が政策変更に対して一定の頑健性を持つことを示している。寄付や自主的需要に依存するボランタリー型では到達しがたい規模と継続性を、コンプライアンス型の生物多様性市場が確保しうるかどうかが、今後の市場形成を左右する論点となる。

参考:https://www.nattergal.com/blog/englands-nature-markets-on-track-to-deliver-a-fifth-governments-2042-biodiversity-target