カーボンクレジット/CDRの国際的な科学評価「State of Carbon Dioxide Removal」第3版が公開された。50名超の気候科学者が参画し、世界のCDRの現状とパリ協定整合経路との距離を定量化したものである。
評価は、各国の現行CDR計画がパリ整合経路に対し、2050年時点で年50億トン超不足すると指摘した。
パリ整合経路との乖離
世界全体のCDRは現状で年約22億トン。これを2050年までに約4倍の年87.5億トンへ拡大しなければ、気温上昇を1.5度に抑える経路に整合しないとされる。
評価は、急速な排出削減を最優先としたうえで、長期的な温暖化抑制にはCDRの拡大が不可欠だと位置づけている。
自然由来への偏重
現状のCDRはその約99%が植林や再植林、土地管理を中心とする自然由来で占められる。DACやバイオ炭、岩石風化促進といった技術由来は年200万トンにとどまる。
技術由来CDRは年約40%で拡大している。評価はこの成長速度を、太陽光発電やEVが過去に示した立ち上がりに匹敵すると分析する。
求められる水準は2030年までに7,000万トンであり、2026年から2030年が産業基盤を確立する臨界期と位置づけられる。
一方で、全体の1%にも満たない技術由来CDRに比重を置く見方には慎重論もあり、評価自体も単一経路ではなく複数手法のポートフォリオ構築の重要性を強調している。
底堅い資金と脆弱な需要
気候テック投資が全般に減速するなかでも、CDR企業向けの投資は相対的に底堅さを保った。ただし、長期的な買い手需要の見通しは脆弱なままである。
市場は少数の政府と先行企業に依存する構造にある。買い手としてはマイクロソフト(Microsoft)や金融機関が挙げられ、企業予算の変動や米国の気候政策の後退がセクター全体の脆弱性を高めると評価は警告する。
規制市場への移行
現状のCDR市場はボランタリーカーボンクレジット市場が牽引している。
ただし市場予測は、2030年までにコンプライアンス市場の枠組みとキャップ&トレードへの統合が収益の主軸になるとの見通しを示している。
編集部の視点
第3版が示した乖離の構図は、CDRが排出削減を補完する手段から、気候目標の達成に不可欠な産業へと移行する局面にあることを裏づける。
技術由来CDRの年40%成長と2026年から2030年の臨界期という時間軸は、規制市場への移行見通しと併せ、この分野が産業基盤確立の段階に入りつつあることを示す事例として位置づけられる。
ただし、各指標の多くは前版からの趨勢の延長線上にあり、乖離の存在自体は想定の範囲にある。むしろ本評価が浮き彫りにしたのは、底堅い資金と脆弱な需要の非対称、そして少数の買い手と政府への依存という構造的な脆さである。
技術的な拡大速度ではなく、需要側の厚みと制度的な裏付けをどこまで確保できるかが、2030年に向けた拡大の現実性を左右する。
