欧州委員会は5月28日、2030年までに年5,000万トンのCO2圧入容量を確保するというEU目標について、初回の進捗報告書を公表した。
義務化された石油・ガス生産44事業者が2025年に提出した計画を集計すると、確保が見込まれる貯留容量は最大で年2,900万トン、目標の58%にとどまる。加盟国の国家計画を合算しても年3,312万トンで、いずれも目標を下回る。
義務44事業者の計画は確約に乏しい
報告書は、ネットゼロ産業法(NZIA)に基づき、各事業者の2020〜2023年の石油・ガス生産量に応じて按分された貢献義務の履行状況を精査した。割り当てられた圧入容量を確約したのは44事業者中16社、達成手段とマイルストーンを示したのは25社にとどまり、総貯留容量ベースで貢献を確約した事業者はゼロだった。
許可の進捗自体は加速している。
2026年3月時点でポルトス(Porthos、オランダ、年250万トン)、プリノス(Prinos、ギリシャ、74万トン)、グリーンサンド(Greensand、デンマーク、30万トン)の3サイトが圧入許可を取得し、さらに7サイトが許可を申請中で、合わせると年1,900万トン超の圧入容量となる。CCS指令が採択された2009年から目標が設定された2024年までに発給された許可は1件であり、制度始動後の1年間で4件に達した点と対照的である。
報告書によれば、2026年6月末までに各国は義務事業者の不履行に対する効果的かつ抑止的な罰則を整備しなければならない。
需要は貯留供給を大きく上回る
報告書は、貯留容量の不足が需要不足に起因するとの見方を退けている。イノベーション基金(Innovation Fund)はCO2回収・輸送・貯留関連の60案件に約66億5,000万ユーロ(約1兆2,300億円)の助成を確約済みで、このうち回収案件だけで年2,530万トン、目標の半分に相当する圧入需要を生む見込みだ。2020年以降に同基金へ申請した回収案件は100件を超え、これらが実現すれば年8,000万トン超のCO2が恒久貯留を必要とする。
需要側の数字が貯留供給を大きく上回る以上、律速はもはや需要ではなく、貯留サイトの開発と許可の速度にある。報告書が需要の強さを繰り返し指摘していること自体が、この構造を裏づけている。
評価は「射程圏内」と「未達」に分かれる
もっとも、同じ報告書から相反する評価が導かれている。
委員会のニュースリリースは、貯留サイトが着実に増え目標は射程圏内にあると総括し、ウォプケ・フックストラ(Wopke Hoekstra)気候・ネットゼロ・クリーン成長担当委員も、年1,900万トン超の圧入容量が重工業向けに供給されると強調した。一方で、計画値が目標の58%にとどまる現実を重く見て、目標未達をほぼ確実とみる立場もある。前者は許可発給の加速と市場の立ち上がりを、後者は義務事業者の確約不足を、それぞれ評価の根拠としている。
編集部の視点
本報告書の含意は、CO2貯留が「需要不足」ではなく「供給確保」の問題へ移行した点にある。
革新基金への回収申請だけで年8,000万トン超の圧入需要が見込まれる一方、許可済みと申請中を合わせた貯留容量は約1,900万トンにとどまる。需要は顕在化しており、律速は貯留サイトの開発と許可の速度へと移った。
義務44事業者の計画値が目標の58%にとどまる以上、「射程圏内」という総括の妥当性は、2026年6月に各国が整備する罰則枠組みを按分義務の履行へどこまで結びつけられるかに左右される。制度設計の妥当性ではなく、執行の設計が目標達成の可否を決める局面に入っている。
