カーボンクレジットにおける「永続性」とは?詳しくてわかりやすい用語解説|What Is Permanence in Carbon Credits?

村山 大翔

村山 大翔

「カーボンクレジットにおける「永続性」とは?詳しくてわかりやすい用語解説|What Is Permanence in Carbon Credits?」のアイキャッチ画像

カーボンクレジットを購入する際、その「1トンのCO2削減・除去」という価値が、どれくらいの期間保証されるのかは極めて重要な問いである。10年か、100年か、それとも1000年以上か。

この「時間の長さ」と「確実性」を問い、カーボンクレジットの品質を測る上で最も重要な概念の一つが「永続性(Permanence)」である。本記事では、永続性の定義、その重要性、そしてリスク管理の仕組みについて解説する。

永続性とは

永続性(Permanence)とは、カーボンクレジットの創出元となるプロジェクトによって、CO2がどれだけ長期にわたり、かつ確実に大気中から隔離され続けるかを示す度合いである。「耐久性、恒久性(Durability)」とほぼ同義で用いられる。

この対義語となる概念が「非永続性のリスク(Non-permanence Risk)」または「反転リスク(Reversal Risk)」である。これは、一度森林や土壌などに貯留された炭素が、火災や不適切な管理によって再び大気中に放出されてしまう危険性を指す。

なぜ永続性が重要なのか

永続性は、カーボンクレジットの環境的価値と経済的価値の両方を決定づける核心的な要素である。その重要性は主に以下の3点に集約される。

オフセットの信頼性の根幹

排出されるCO2の多くは、数百年以上にわたって大気中に留まり、地球温暖化に影響を与え続ける。その排出を相殺(オフセット)するためには、排出されたCO2が大気中に留まる期間と同等か、それ以上の期間、CO2を確実に隔離する必要がある。永続性の低いカーボンクレジットによるオフセットは、一時的な問題の先送りに過ぎず、気候変動の根本的な解決にはならない。

ネットゼロ」達成の要件

SBTiなどの国際的な基準において、企業が「ネットゼロ」目標を達成するためには、削減しきれない残余排出量を中和する必要がある。この中和においては、永続性が極めて高い「耐久性のある炭素除去(Durable Carbon Removal)」由来のカーボンクレジットを用いることが求められる傾向にある。

クレジットの価値決定要因

永続性は品質を測る最も重要な指標の一つである。一般的に、永続性が高く、反転リスクが低いカーボンクレジットほど、高品質で信頼できる資産と見なされ、その価値は高く評価される。

永続性リスクとその管理メカニズム

特に植林や森林保全といった自然由来のプロジェクトは、その性質上、永続性に関する固有のリスクを抱えている。

非永続性リスク(反転リスク)の主な原因

リスクの要因は大きく二つに分類される。

  • 自然災害
    森林火災、干ばつ、病害虫の大量発生などによる森林の消失。
  • 人為的な要因
    違法伐採、土地用途の変更、プロジェクト管理の不備、あるいは政情不安による保護政策の撤回など。

リスク管理の仕組み「バッファープール」

これらのリスクに対応するため、主要なボランタリークレジット認証機関は「バッファープール」と呼ばれる共同保険のような制度を導入している。

具体的な仕組みは以下の通りである。

  1. 預託
    自然由来のプロジェクトがクレジットを発行する際、認証機関はプロジェクトのリスク評価に応じた一定割合(例:10%~20%)のクレジットを市場で販売させず、共通の「バッファープール」に預託させる。
  2. 補填
    もし、あるプロジェクトで火災などによる炭素の再放出(反転)が発生した場合、認証機関はその損失分に相当するカーボンクレジットをバッファープールから取り崩し、永久に無効化(リタイア)する。

この仕組みにより、個別のプロジェクトで損失が発生しても、市場に流通している他のカーボンクレジットの価値と信頼性は守られる。

除去アプローチによる永続性の違い

永続性の期間は、CO2を除去・貯留する方法によって大きく異なる。

自然ベースの除去(植林、土壌貯留など)

生物学的プロセスを利用するため、本質的に反転リスクを伴う。永続性は数十年から百年単位と見なされることが多く、前述のバッファープールのような厳格なリスク管理が不可欠である。

技術ベースの除去(DACCS、バイオ炭など)

CO2を地層深部への圧入や、化学的に安定した構造(バイオ炭など)に固定する方法である。これらは物理的・化学的に安定しているため反転リスクが極めて低く、数百年から数千年以上の永続性を持つとされる。これが「Durable(耐久性のある)」と呼ばれる所以である。

まとめ

永続性は、カーボンクレジットの価値と信頼性を時間軸で測るための極めて重要な品質基準である。

  • 永続性とは、除去・貯留された炭素が大気から隔離され続ける期間の長さと確実性を指す。
  • 自然由来クレジットは反転リスクを抱えるため、バッファープールによる管理が必要である。
  • 技術由来クレジットは、一般的に永続性が非常に高い。

カーボン市場において、「何トンのCO2か」という量だけでなく、「その1トンは、どれだけ長く、どれだけ確実に隔離されるのか」という質の問いが、気候変動対策への誠実さを測るリトマス試験紙となっている。