温室効果ガス(GHG)とは?わかりやすく解説|What Are Greenhouse Gases?

村山 大翔

村山 大翔

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地球が、生命にとって快適な温度に保たれているのは、大気中に存在する「温室効果ガス」が、まるで地球を包む「透明な毛布」のような役割を果たしているからです。しかし、人間活動によってその毛布が必要以上に厚くなり、地球が過剰に暖められてしまう。それが、地球温暖化の基本的なメカニズムです。

この記事では、全ての気候変動の議論の出発点である「温室効果ガス(Greenhouse Gas, GHG)」について、その正体と種類、そしてなぜその管理が人類共通の課題となっているのかを解説します。

温室効果ガス(GHG)とは?

温室効果ガスとは、一言で言うと「地球の表面から宇宙へ逃げる熱(赤外線)の一部を吸収し、再び地表に戻す(再放射する)性質を持つ、大気中の気体成分」のことです。

このプロセスは「温室効果」と呼ばれ、自然な状態では、地球の平均気温を約14℃という生命に適した温度に保つために不可欠なものです。しかし、産業革命以降、人間活動によって大気中の温室効果ガスの濃度が急激に増加したことで、この「毛布」が厚くなりすぎ、地球全体の気温が上昇する「地球温暖化」が引き起こされています。

なぜGHGが重要なのか?

温室効果ガスは、現代の気候変動を理解し、対策を講じる上での、最も基本的なキーワードです。

地球温暖化の主要因
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、近年の温暖化が人間活動による温室効果ガスの増加に起因することを、科学的に「疑う余地がない」と結論付けています。

全ての気候変動政策の対象
パリ協定のような国際条約から、各国の法律、そして企業の削減目標に至るまで、全ての気候変動対策は、この温室効果ガスの排出をいかにして減らし、大気中から除去するかに焦点を当てています。

多様なガスと多様な対策
温室効果ガスには複数の種類があり、それぞれ発生源や温暖化への影響度が異なります。そのため、ガスごとの特性を理解し、それぞれに応じた対策を打つことが重要になります。

国際交渉の対象となる主な温室効果ガス

京都議定書やパリ協定の下で、国際的に排出量の算定・報告・削減の対象となっているのは、主に以下の7種類のガスです。

二酸化炭素(CO2)

最も排出量が多く、温暖化への影響が最大の温室効果ガス。主に化石燃料(石炭、石油、天然ガス)の燃焼や、セメントの生産、森林減少などによって排出されます。

メタン(CH4)

CO2の次に影響の大きなガス。家畜(牛のゲップなど)や水田、天然ガスの採掘時の漏洩、廃棄物の埋め立てなどから発生します。大気中の寿命はCO2より短いものの、短期的な温室効果は数十倍強力です。

一酸化二窒素(N2O、亜酸化窒素)

主な発生源は、農用地に施用された窒素肥料や、工業プロセス、燃料の燃焼など。大気中の寿命が非常に長く、温暖化能力もCO2の200倍以上と強力です。

Fガス類(フロンガス類)

自然界には存在しない、人間が作り出した化学物質。極めて強力な温室効果を持ち、大気中に数千年以上にわたって留まるものもあります。

  • ハイドロフルオロカーボン類(HFCs):主にエアコンや冷蔵庫の冷媒として使用。
  • パーフルオロカーボン類(PFCs):半導体の製造プロセスなどで使用。
  • 六フッ化硫黄(SF6):電力設備などで絶縁ガスとして使用。
  • 三フッ化窒素(NF3):半導体や液晶パネルの製造プロセスで使用。

これら異なるガスの温暖化能力を比較するため、CO2を「1」とした場合の温暖化能力を示すGWP(地球温暖化係数)」という指標が使われ、全ての排出量は「CO2換算(CO2e)」という共通の単位で計算されます。

国際的な動向と開発の視点

排出量の算定・報告義務
パリ協定の下では、先進国・途上国を問わず、全ての国が自国の温室効果ガス排出目録(インベントリ)を作成し、国連に報告することが求められています。この透明性が、世界全体の進捗を測るための基礎となります。

開発と排出源の多様性
国際開発の視点からは、各国の経済構造によって、主要な排出源となる温室効果ガスの種類が異なる点が重要です。例えば、多くの途上国では、農業セクターからのメタン(CH4)や一酸化二窒素(N2O)の排出割合が高い傾向にあります。そのため、各国の事情に合わせた、オーダーメイドの削減戦略と国際支援が不可欠です。

メリットと課題(概念として)

メリット(GHGという概念を理解することの)

  • 気候変動の根本原因を、科学的に明確に理解できる。
  • 排出源を特定することで、効果的な対策を講じることができる。
  • 「CO2換算」という共通の物差しにより、国や企業、プロジェクトの垣根を越えて、削減努力を比較・評価できる。

デメリット(課題)

  • 見えない脅威:温室効果ガスは無色・無臭で、その影響がすぐには現れないため、問題の緊急性が社会に認識されにくい。
  • 経済活動との密接な関係:排出が、エネルギー、食料、輸送、工業生産といった、私たちの生活のあらゆる側面に深く組み込まれており、その削減には社会経済システム全体の大きな変革が必要。

まとめと今後の展望

本記事では、温室効果ガス(GHG)が、地球を暖かく保つ自然の「毛布」でありながら、人間活動によってその濃度が過剰になり、地球温暖化を引き起こしている、気候変動の根本原因であることを解説しました。

【本記事のポイント】

  • 温室効果ガスは、地球の熱を大気中に保持する「温室効果」を持つ気体。
  • 国際的な削減対象は主にCO2、メタン、N2O、Fガス類の7種類。
  • 温暖化能力の違いはGWPで評価され、排出量はCO2換算で統一される。
  • GHG排出量の算定・報告は、全ての気候変動対策の出発点

温室効果ガスに関する科学的な理解は、今や完全に確立されています。人類に残された課題は、この科学的真実に基づき、いかにして迅速かつ公正に、社会経済システム全体を脱炭素化させていくかという、政治的・経済的な挑戦です。国際開発の視点からも、この挑戦は、先進国だけの問題ではありません。途上国が、化石燃料に依存した過去の発展モデルを飛び越え、持続可能で強靭な低排出型の未来を築けるよう、世界全体で支援していくことが、地球全体の運命を左右するのです。