英大手銀がCDRを試験購入 廃棄物活用による炭素鉱物化由来のカーボンクレジット

村山 大翔

村山 大翔

「英大手銀がCDRを試験購入 廃棄物活用による炭素鉱物化由来のカーボンクレジット」のアイキャッチ画像

英金融大手ナットウエスト・グループ(NatWest Group)は2025年12月18日、スコットランドのクライメートテックであるザ・カーボン・リムーバース(The Carbon Removers)から、500トン分の二酸化炭素除去証書(CORC)を購入したと発表した。

この取引は、従来の「排出回避・削減」に依存したオフセット戦略を見直し、より永続性の高い「技術系炭素除去(CDR)」を自社のポートフォリオに組み込むための試験的な導入である。

焼却灰とCO2を結合させる「鉱物化」技術

今回購入されたクレジットは、CDR市場で世界的な信頼性を持つ認証機関ピュロ・アース(Puro.earth)の「炭酸化材料(Carbonated Materials)」方法論に基づいて発行されたものである。その生成プロセスは、植物などが吸収した「生物由来CO2(バイオジェニックCO2)」を回収し、それを産業焼却プロセスから出る廃棄物と化学反応させて結合させるというものだ。これにより、CO2は安定した建築用骨材(コンクリート材料など)の中に永続的に封じ込められる。

この技術は、大気中の炭素を物理的に隔離・固定するため、森林保全などの自然由来プロジェクトと比較して、リバーサルのリスクが極めて低い「高耐久性CDR」として分類される。

金融機関が求める「質の高い除去」への転換

ナットウエスト・グループによる今回の購入は、単なる環境貢献にとどまらず、同行のネットゼロ戦略における「オフセットの質」を検証する意味合いが強い。 同行の気候ソリューション責任者であるミラプ・ミシュラ(Milap Mishra)氏は、「ザ・カーボン・リムーバースのCORCは、産業プロセスからの炭素回収と焼却廃棄物の活用を組み合わせ、地質学的に安定した炭酸化材料を生み出す、スケーラブルで有望なアプローチだ」と指摘した。

また、ザ・カーボン・リムーバースの最高商務責任者(CCO)、サンジャイ・パレク(Sanjay Parekh)氏は、「責任ある組織が炭素除去市場の発展にどう貢献できるかを示す事例だ」と述べ、金融機関による初期需要の創出が技術の社会実装を加速させる重要性を強調した。

北海での大規模貯留プロジェクトも始動へ

ザ・カーボン・リムーバースは今回の鉱物化技術に加え、地中貯留技術の開発も進めている。同社は2026年初頭に、デンマーク沖の北海において、年間5万トン(50,000トン)のCO2を永久的に隔離できる大規模貯留施設を稼働させる計画だ。 欧州では、企業のネットゼロ目標達成に向け、信頼性の高い除去クレジットへの需要が急増しており、今回のパイロット購入は、今後の本格的な調達に向けた布石となる。

日本企業にとっての「鉱物化」という勝機

今回のニュースは、単に「銀行がクレジットを買った」という点ではなく、金融業界が「安価な森林カーボンクレジット」から「高価だが確実な技術系除去」へと選好をシフトさせている線として捉えるべきである。

特筆すべきは、今回採用された「コンクリート等への炭素鉱物化」技術において、日本は世界でもトップクラスの技術蓄積を持っているという事実だ。これまでコスト高がネックとされてきた日本の鉱物化技術であるが、欧州の大手銀行がこの分野のクレジットに資金を投じ始めたことは、日本の建設・素材メーカーにとって、自社技術を「CDRクレジット」という金融商品として世界に輸出できる大きなチャンスが到来していることを示唆している。

参考:https://thecarbonremovers.com/natwest-pilots-carbon-removal-with-corc-purchase-from-the-carbon-removers/