COP30へ向けたカウントダウン 「適応指標」と「1.3兆ドル気候資金」が焦点に

村山 大翔

村山 大翔

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国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)が、11月10日から21日までブラジル・ベレンで開催される。パリ協定採択から10年を迎える今年の会議は、「交渉から実装へ」という転換点を象徴する。ブラジル議長国は、多国間主義の強化とともに、気候行動を人々の生活に結びつける実践的アプローチを重視しており、非国家主体を巻き込む「アクション・アジェンダ」と先住民の知恵に根差す「ムチロン(mutirão)」の精神がキーワードとなる。

適応指標をめぐる合意形成へ 「世界的適応目標(GGA)」の実効性を問う

今年の交渉では、気候変動への適応に関する包括的な成果パッケージが焦点だ。各国は、パリ協定で掲げられた「世界的適応目標(Global Goal on Adaptation, GGA)」の進捗を測定するための指標セットの採択を目指す。9月には約100項目の暫定指標が提示され、ベレンでの協議の基礎資料となる。

経済協力開発機構(OECD)と国際エネルギー機関(IEA)の専門家グループ(CCXG)は、各国の報告体制を活用した「運用可能かつ野心的な」指標設計を提言している。報告能力の進展に応じて指標を調整する「反復的アプローチ」を採ることで、データの整合性と透明性を高めることが可能だとする。これにより、気候適応の優先分野を明確化し、官民のパートナーシップを促進する狙いがある。

次期NDC提出を控え 「実施可能で投資可能な」計画が鍵

2025年は各国が新たな国別気候計画(Nationally Determined Contributions, NDC)を提出する節目でもある。国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)が9月末までに受理した64件の新NDC分析によると、進展は見られるものの、1.5度目標達成には加速が不可欠だ。

OECDと国連開発計画(UNDP)の共同研究では、強化されたNDCの実施により、2050年までに世界GDPを最大3%押し上げ、2100年には最大13%の増加が見込まれると試算している。また、同期間で1億7,500万人を極度の貧困から脱却させる効果も期待されるという。しかし、これを実現するには、政府内の政治的コミットメント、地域開発政策との整合、民間部門との連携、そして「資金動員力」が不可欠である。特に、NDCを「投資可能なプロジェクト群」に転換することが、次の10年の成否を左右する。

「1.3兆ドル」新資金目標の実装 バクーからベレンへ

昨年のCOP29で合意された新たな気候資金目標(New Collective Quantified Goal, NCQG)の履行も注目点だ。2035年までに少なくとも1兆3,000億ドル(約195兆円)規模の資金を動員し、そのうち毎年3,000億ドル(約45兆円)を確保することが求められている。

OECD-CCXGの最新分析は、NCQGの範囲や対象資金の定義、進捗管理の手法などを巡る課題を指摘する。信頼性あるモニタリングのためには、資金データの整合性と透明性の強化が不可欠だ。これを実行段階へと移すための具体的指針として、「バクーからベレンへのロードマップ」が策定中である。開発銀行改革、譲許的資金の拡充、国内能力構築、民間資金の動員促進などを体系的に示す計画だ。

パリ協定10周年 「約束の履行」と「協働の拡大」へ

COP30は、パリ協定の10周年を祝う節目であると同時に、適応の加速、資金動員の拡大、NDC実施の具体化を進める実践フェーズの出発点でもある。OECDは、ベレン会場およびバーチャル・パビリオンで以下の関連セッションを開催する予定だ。

  • 11月3日:「適応指標の活用―国家現実から世界的評価へ」
  • 11月4日:「NCQGの展開―3,000億ドル目標と1.3兆ドル規模拡大のための情報整備」
  • 11月6日:「強化NDC―産業脱炭素化への機会創出」

ベレン現地でも、アジアの投資促進やNDC実施支援に関するイベントを開催する。今後の焦点は、「約束された資金と計画を、いかに具体的な脱炭素・適応プロジェクトへと転換できるか」に移る。

参考:https://www.oecd.org/en/blogs/2025/11/counting-down-to-belem-what-are-some-key-issues-on-the-table-at-cop30.html