世界最大の土壌炭素除去クレジット303万トンを発行 ブーミトラのメキシコ草原再生プロジェクト

村山 大翔

村山 大翔

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米炭素除去スタートアップのブーミトラ(Boomitra)は2月5日(現地時間4日)、メキシコ北部で展開する草原再生プロジェクトにおいて、303万トンのカーボンクレジットを発行したと発表した。

これは土壌炭素除去(CDR)プロジェクトとして世界最大規模であり、国際的な認証機関であるベラ(Verra)の厳格な農業・土壌管理手法「VM0042」が北米で初めて適用された事例となる。

本プロジェクトは、メキシコのチワワ砂漠およびソノラ砂漠にまたがる約400万エーカー(約162万ヘクタール)の広大な土地で実施されている。

再生農業の一環である「回転放牧」を採用し、劣化した土地の回復を図ることで、2019年から2022年の間に大気中から300万トン以上の二酸化炭素(CO2)を除去した。この成果は独立機関によって検証されており、土壌炭素除去が商業規模で実現可能であることを証明する画期的な節目となった。

経済モデルの透明性も本事業の特徴である。

ブーミトラは、クレジット販売による総収益の少なくとも75%を現地の牧場主やコミュニティに還元する仕組みを構築している。現在、158の牧場主が参加しており、初期投資や専門機器、インターネット環境を必要としない「プロデューサー・ファースト」のアプローチにより、これまでカーボンマーケットから排除されていた地域の参加を可能にした。

参加牧場主の一人であるホルヘ・パンド氏は「2,200ヘクタールの放牧地を124の区画に分け、太陽光発電の電気柵で管理することで、各区画に18ヶ月以上の休止期間を与えている。その結果、土壌の状態が改善し、以前は1種だった草が現在は17種にまで増えた」と、生物多様性の回復と生産性の向上を指摘した。

市場からの関心も高く、デロイト・エヌ・エス・イー(Deloitte NSE)やディーピー・ワールド(DP World)、イーサリアム・クライメート・プラットフォーム(Ethereum Climate Platform)などの企業がすでにクレジットの事前購入を確約している。また、2025年9月にはシンガポール政府が、パリ協定に基づく国決定貢献(NDC)達成に向けた「第6条クレジット」として62万5,000トンの供給を受ける契約を締結している。

関連記事:シンガポール政府、NDC達成のため84億円分のカーボンクレジットを購入 カーボンクレジット市場の発展を後押し

ブーミトラの創設者兼最高経営責任者(CEO)であるアディス・ムールティ氏は「土壌炭素はもはや『新興』の解決策ではなく、高い透明性を維持しながら大規模に展開可能な、確立された気候変動対策である」と述べた。

ベラ(Verra)のマンディ・ランバロスCEOは「本プロジェクトは、ターゲットを絞った農業手法の導入がいかに大規模な気候利益をもたらすかを示している。厳格な科学と保守的な算定、独立した検証を通じて、土地、コミュニティ、そして気候のすべてに利益が及ぶことを保証していく」と強調した。

本プロジェクトは今後、気候・コミュニティ・生物多様性(CCB)基準の認証も受ける予定であり、さらなる環境的・社会的価値の検証が進められる。世界的に「回避」型クレジットから「除去」型クレジットへのシフトが加速する中、300万トン規模の供給開始は、2026年のカーボンクレジット市場における価格形成や需要動向に大きな影響を与える見通しである。

今回のブーミトラによる大規模発行は、これまで「計測の難しさ」や「永続性の懸念」から懐疑的な目も向けられてきた土壌炭素プロジェクトが、名実ともにCDR市場の主役に躍り出たことを意味します。特筆すべきは、発行されたクレジットが単なる「排出削減」ではなく、大気中から炭素を取り除く「除去(Removal)」100%である点です。

日本の事業者にとっても、SBTiなどの国際基準で「除去」の重要性が高まる中、このような大規模かつ高品質な供給源の確保は急務となるでしょう。

また、収益の75%を現地の生産者に還元するモデルは、サステナビリティ投資の観点からも非常に評価されやすい構成です。

今後は、シンガポール政府のように国単位での二国間クレジット取得の動きが、日本政府や国内大企業の間でも加速するかどうかが、次なる注視ポイントとなります。

参考:https://boomitra.com/record-soil-carbon-issuance/