CDRクレジットとは、炭素除去(CDR:Carbon Dioxide Removal)によって創出されるカーボンクレジットを指す。つまり、単に排出を削減するだけでなく、大気中から実際に二酸化炭素(CO2)を取り除いた成果をクレジット化したものである。
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従来のカーボンクレジットは、再生可能エネルギーの導入や省エネ設備の導入など、CO2排出の回避・削減に基づくものであった。これらは回避系カーボンクレジットや削減系カーボンクレジットと呼ばれる。
これに対しCDRクレジットは、森林吸収、バイオマス利用、直接空気回収(DAC)などの技術を用い、大気中のCO2を「マイナスにする」行為を対象とする。回避系・削減系クレジットが「これ以上増やさない」努力を評価するのに対し、CDRクレジットは「すでに大気中にあるCO2を減らす」成果そのものを評価する点が本質的に異なる。
CDRクレジットが重要視される最大の理由は、企業や国のネットゼロ目標の達成において、回避系・削減系クレジットでは代替できない役割を担う点にある。
科学に基づく目標設定イニシアチブ(SBTi)が定める企業向けネットゼロ基準の最新版(Corporate Net-Zero Standard V2.0、2027年2月適用開始予定)では、ネットゼロ目標年に、削減しきれない残余排出量の100%を、実際に検証された炭素除去(CDR)によって中和することを求めている。具体的には、2035年時点で除去による中和量をスコープ1〜3排出量の1%以上とし、そこからネットゼロ目標年(遅くとも2050年)に向けて100%まで段階的に引き上げること、また2035年時点でその除去量の少なくとも10%を、DACCSや鉱物化のように数世紀〜数千年単位で貯留される「永続性の高い除去」で賄うことなどが求められている。
こうした基準の下では、排出の増加を防ぐ回避系クレジットや、排出原単位を下げる削減系クレジットだけでは、ネットゼロの達成要件を満たせない。実際に大気中のCO2を取り除くCDRクレジットこそが、ネットゼロという「最終ゴール」に到達するための、代替の効かない仕組みとして位置づけられている。
CDRの方法は多岐にわたるが、大きく自然ベースと技術ベースの二つに整理できる。
自然由来のCDRプロジェクトには、例えば、植林・再植林(ARR : Afforestation, Reforestation)、生物起源炭素除去・貯留(BiCRS : Biogenic Carbon Removal and Storage)、海洋炭素除去(mCDR : marine CDR)などが挙げられる。
これらのプロジェクトは比較的コストが低い一方で、除去した炭素の永続性の確保や、食糧生産のための土地利用との競合といった課題がある。mCDRは特に、藻類の海洋散布や海洋アルカリ化などの手法が世界各地で研究・実証段階にあり、商用規模で稼働する事例はまだ存在しない。
技術由来のCDRプロジェクトには、例えば直接空気回収・貯留(DACCS : Direct Air Capture and Carbon Storage)、バイオエネルギー炭素回収・貯留(BECCS : Bioenergy with Carbon Capture and Storage)などが挙げられる。
これらのプロジェクトはCO2除去の確実性は高い一方で、現時点ではコストが非常に高く、商用規模の展開には時間を要する。DACCSはDAC(直接空気回収)で分離したCO2を地中に貯留する形態であり、BECCSはバイオマス発電とCCS(炭素回収・貯留)を組み合わせる形態である。
CDR市場を専門に追跡するCDR.fyiの分析によれば、技術由来を中心とした「耐久性CDR(durable CDR)」の2026年第1四半期の契約量は約230万トンに達し、単一四半期として過去最大を記録した(前年同期比で約5.6倍)。この四半期はバイオ炭が契約量の9割超を占め、DACCSや鉱物化、mCDRなど他の手法は依然として少量にとどまる。
品質保証の面では、自主的炭素市場の健全性評議会(ICVCM)が2026年2月時点で8つの認証プログラムをコアカーボン原則(CCPs)適格と認定し、自然由来・メタン・除去系を合わせて38の方法論がCCPラベル基準を満たすと承認した。除去(CDR)分野に限ると、ゴールドスタンダードのコンクリート骨材加速炭酸化や、Isometricのバイオマス地中貯留・バイオオイル地中貯留・地下バイオマスCDR・BECCS・DACの計6方法論が承認されている。
国際的な基準整備では、パリ協定第6条4項に基づく国連管理型クレジット制度(PACM)で、方法論要件に関する基準と、大気からの温室効果ガス除去活動に関する基準が2024年10月9日に発効した。2026年には同制度に基づく最初のクレジット発行も実現し、制度は本格運用の段階に入りつつあるが、CDRに特化した除去方法論の整備・認証は依然として途上にある。
日本では、2026年度にGX-ETS(排出量取引制度)が本格稼働し、直近3カ年平均で年間10万トン以上のCO2を直接排出する約300〜400社が対象となる見込みである。取引価格には上限(参考上限取引価格、1トンあたり4,300円)と下限(調整基準取引価格、同1,700円)が設定され、排出枠の不足分はJ-クレジットやJCM(二国間クレジット制度)で、年間実排出量の10%を上限に補うことができる。CDRなど革新的な脱炭素技術への投資を後押しする調整措置の導入も予定されており、CCSやDACCS、森林吸収などによる除去価値を将来的にJ-クレジット等の制度に組み込むための検討が続いている。
国内のCDR由来クレジットとしては、J-クレジット制度のバイオ炭施用方法論(AG-004)がすでに運用されている(詳しくはBiCRSを参照)。一方、DACCSやCCSを軸とする技術由来CDRは、国内での商用規模実証がこれからの段階にある。mCDRについても、日本を含む複数国が実用化の可能性を探っている段階で、海洋環境保護団体などからは、実証実験の段階でカーボンクレジットを早期に発行・販売すべきではないとの慎重論も出ている。
CDRクレジットの普及には、以下のような複数の課題が指摘されている。
除去量の測定・報告・検証(MRV)
特に自然由来のCDRにおいて、正確な除去量を把握し、透明性をもって報告することが困難である。
除去の永続性担保
クレジットの価値を維持するためには、除去したCO2が長期間にわたって大気中に再放出されない保証が必要である。SBTiの最新基準が、DACCSや鉱物化のような長期貯留を段階的に重視する方向へ舵を切っていることも、この課題の重みを裏付けている。
コスト
市場データによれば、DAC(直接空気回収)のコストは2026年時点でも1トンあたり400〜600米ドル程度と依然高水準で、案件によっては1,000米ドルを超える例も報告されている。一方、自然由来CDRの中心であるバイオ炭クレジットは、同時期の取引データでおおむね1トンあたり125〜200米ドル程度で推移しており、技術由来CDRに比べて相対的に低コストである。いずれも、CO2排出の回避・削減系クレジット(数ドル〜二十数ドル程度が中心)と比べれば依然として大幅に割高であり、広く利用するにはコストダウンが求められる。
国際的な基準整備が途上
パリ協定第6条との整合性を図るなど、グローバルな市場としての信頼性を高めるためのルール作りが進行中である。
CDRクレジットを実際に調達・活用する際は、除去手法や方法論、MRVの信頼性、永続性の担保状況など、プロジェクト・サプライヤーごとの品質差を見極めることが欠かせない。こうした品質評価やサプライヤー比較には、CDR PROのような専門プラットフォームの活用も有効な選択肢となる。
CDRクレジットは、脱炭素社会を実現するための「最終ピース」として位置づけられる。
これまで主流であった回避系カーボンクレジット、削減系カーボンクレジットが「炭素の増加を抑える」ものであるのに対し、CDRクレジットは「炭素を減らす」仕組みである。SBTiの最新ネットゼロ基準が示すように、企業のネットゼロ目標達成には、この「減らす」クレジットが不可欠な要素として組み込まれつつある。今後、信頼性の高いMRV基準と市場メカニズムの整備が進むことで、CDRクレジットはグローバルな炭素市場の中核的存在となることが期待される。
より短い定義は超要約版「CDRクレジット」を参照。
CDR credits are carbon credits generated through Carbon Dioxide Removal (CDR) — technologies and practices that actively pull CO2 out of the atmosphere, rather than merely avoiding or reducing new emissions. Conventional “avoidance” credits (e.g., renewable energy) and “reduction” credits reward efforts that stop emissions from growing; CDR credits instead certify that CO2 already in the atmosphere has actually been removed.
CDR credits matter increasingly because of how corporate net-zero targets are defined. The Science Based Targets initiative’s updated Corporate Net-Zero Standard (V2.0, taking effect February 2027) requires companies to neutralize 100% of residual emissions with verified removals in their net-zero target year, ramping from at least 1% of scope 1–3 emissions in 2035 to 100% by no later than 2050 — with at least 10% of that 2035 removal volume coming from long-lived storage such as DACCS or mineralization. Avoidance and reduction credits alone cannot satisfy this requirement.
CDR methods fall into two broad families. Nature-based approaches — afforestation/reforestation (ARR), biogenic carbon removal and storage (BiCRS), and marine CDR (mCDR) — tend to be lower-cost but face challenges around permanence and competition for land. Technology-based approaches — direct air capture with storage (DACCS) and bioenergy with carbon capture and storage (BECCS) — offer higher certainty of removal but remain far more expensive and are still scaling toward commercial deployment.
Momentum is building globally: CDR.fyi tracked roughly 2.3 million tonnes of durable CDR contracted in Q1 2026 alone — a record quarter, up roughly 5.6x year-over-year, with biochar accounting for over 90% of volume. The Integrity Council for the Voluntary Carbon Market (ICVCM) had approved eight CCP-eligible programs and 38 methodologies by February 2026, including six engineered-CDR methodologies. Under the Paris Agreement, Article 6.4’s methodology and removals standards took effect in October 2024, and the mechanism issued its first credits in 2026, though CDR-specific methodologies are still being developed. In Japan, the GX-ETS emissions trading scheme launches in full in fiscal year 2026, and discussions are underway to eventually incorporate CCS-, DACCS-, and forest-based removals into the J-Credit Scheme, which already runs a biochar methodology (AG-004).
The central challenges remain consistent: measurement, reporting and verification (MRV) is difficult, especially for nature-based CDR; permanence must be guaranteed over long timescales; costs remain high (DAC around $400–600/tCO2 in 2026, sometimes exceeding $1,000/tCO2, versus roughly $125–200/tCO2 for biochar); and international rules — including alignment with Paris Agreement Article 6 — are still being built out. Buyers evaluating CDR credits should scrutinize methodology, MRV rigor, and permanence project by project.