「CDRクレジット」とは、Carbon Dioxide Removal(CDR:二酸化炭素除去)によって創出されるカーボンクレジットのことを指します。つまり、単に排出を削減するのではなく、大気中から実際にCO2を取り除いた成果をクレジット化したものです。
CDRクレジットの基本的な考え方
従来のカーボンクレジットは、再生可能エネルギーの導入や省エネ設備の導入など、排出削減(Reduction)に基づくものでした。これに対しCDRクレジットは、森林吸収、バイオマス利用、炭素鉱化、DAC(Direct Air Capture:直接空気回収)などの技術を用いて、大気中のCO2を「マイナスにする」行為を対象とします。
この違いはカーボンニュートラル社会において極めて重要です。なぜなら、産業活動の中には排出ゼロが難しい分野(航空・セメント・鉄鋼など)が存在するため、CDRによる除去が「残余排出」を埋め合わせる最後の手段となるからです。
CDRクレジットの主な種類
CDRの方法は多岐にわたりますが、代表的なものを整理すると以下の通りです。
- 自然ベースの除去(Nature-based Removal)
例:植林・再植林、土壌炭素貯留、ブルーカーボン(海藻・湿地)など。
比較的コストが低い一方、永続性(permanence)の確保や土地利用の競合といった課題があります。 - 技術ベースの除去(Technology-based Removal)
例:DAC(直接空気回収)+CCS(二酸化炭素貯留)、BECCS(バイオエネルギー+CCS)など。
科学的に高い除去確実性を持つ一方、現時点ではコストが非常に高く、商用規模の展開には時間がかかります。
CDRクレジットの市場動向
2023年以降、グローバル企業の間で「高品質CDRクレジット」への関心が急速に高まっています。マイクロソフト(Microsoft)やストライプ(Stripe)、アマゾン(Amazon)などは、数百億円規模でCDRプロジェクトに先行投資しており、将来的なクレジット取得を見越した長期契約を結んでいます。
また、CDRを扱う新興プラットフォームも登場しており、たとえばFrontier(フロンティア)やPuro.earth(プーロ・アース)などが高品質なCDRクレジットの認証・取引を進めています。
CDRクレジットの課題
一方で、CDRクレジットの普及には以下のような課題も指摘されています。
- 除去量の測定・報告・検証(MRV)が技術的に難しい。
- 除去の永続性(再放出されない保証)をどう担保するか。
- コストが高く、1トンあたり数百〜数千米ドルに達するケースもある。
- 国際的な基準整備(例えばArticle 6との整合性)がまだ途上。
まとめ
CDRクレジットは、脱炭素社会を実現するための「最終ピース」として位置づけられます。排出削減クレジットが「炭素の増加を抑える」ものであるのに対し、CDRクレジットは「炭素を減らす」仕組みです。今後、信頼性の高いMRV基準と市場メカニズムの整備が進むことで、CDRクレジットはグローバルな炭素市場の中核的存在になっていくと考えられます。