英国のネットゼロ経済が2025年に約1,050億ポンド(約22兆6,000億円)の粗付加価値(GVA)を生み、フルタイム換算で110万人の雇用を支えた。CBIエコノミクス(CBI Economics)とエネルギー・気候情報ユニット(Energy and Climate Intelligence Unit、ECIU)が公表した一連の報告書で示された。
同経済は国民経済の3.8%、全雇用の3.1%を占める。ネットゼロを経済的負担とみる見方は依然根強いが、本報告書はその規模を産業統計として提示し、反証を試みるものと位置づけられる。
主要指標
直接寄与は GVA 367億ポンド(約7兆9,000億円)、直接雇用30.8万人で、これは英国の建築・エンジニアリング部門全体を上回る。ネットゼロ企業が直接生む経済価値1ポンドにつき、サプライチェーンと家計支出を通じて追加で1.85ポンドが波及する。
雇用の質も平均を上回る。同部門の平均年収は4万3,142ポンド(約927万円)で全国平均の3万9,039ポンド(約839万円)を11%上回り、1人当たりの生産額は11万9,300ポンド(約2,560万円)と全国平均を48%上回る。事業基盤は2万3,500社超で、うち96%超を中小企業が占める。
地域別では、スコットランドが102億ポンド(約2兆1,900億円)・10.5万人で雇用集積が最も高く、ウェールズは40億ポンド(約8,600億円)・4.13万人を計上した。イングランドではヨークシャー・アンド・ザ・ハンバーが産出額で先行する。計画段階の再生可能エネルギー設備は4,550億ポンド(約97兆8,000億円)・262GWに達し、蓄電池130GW、洋上風力48GW が中心を占める。
捕捉される経済の範囲
本報告書はリアルタイム産業分類と投入産出モデルに基づき、再生可能エネルギー、製造、建設、エンジニアリング、専門サービスを「ネットゼロ経済」として捕捉している。なお ONS Blue Book 2025 の国民勘定改定を反映しており、前年比較には制約がある。報告書は ECIU の委託で作成され、知見は CBIエコノミクスの見解である旨が明記されている。
編集部の視点
本報告書の意義は、ネットゼロを政策上の負担ではなく、実体ある産業セクターとして数値化した点にある。
国民経済の3.8%、全雇用の3.1%という規模は、英国ネットゼロ政策の経済的正当性を裏付ける論拠として機能する。委託調査という性格上、新たな論点を切り開くというより、既存の推進論に数値的基盤を与えるものとして位置づけられる。
ただし、本報告書が捕捉する「ネットゼロ経済」は再生可能エネルギーと関連サプライチェーンを中核とし、カーボンクレジット取引や CDR(炭素除去)は1,050億ポンドの内訳として可視化されていない。脱炭素の経済価値を測る公的・準公的な統計枠組みにおいて、除去・クレジット領域がいまだ独立した産業セクターとして計上されていないことを示している。
カーボンクレジット/CDR 市場がこうした経済統計に独立したセクターとして現れていない点こそが、本報告書を専門誌の視点から読む際の最大の論点となる。
参考:https://www.cbi.org.uk/articles/net-gains-the-uks-net-zero-economy-in-2025/
