世界初の黒毛和牛メタン削減実証 J-クレジット創出へ 5.5トン削減

村山 大翔

村山 大翔

「世界初の黒毛和牛メタン削減実証 J-クレジット創出へ 5.5トン削減」のアイキャッチ画像

兼松、敷島ファーム、スイス拠点のディーエスエム=フィルメニッヒ(dsm-firmenich AG)の3社は、黒毛和牛を対象とした飼料添加物「ボベアー®」(Bovaer®)による世界初のメタンガス削減実証を完了した。

2025年11月から70日間、北海道白老町の敷島ファーム白老牧場で実施された今回の取組みでは、24頭の黒毛和牛から二酸化炭素換算で約5.5トンの消化管由来メタンを削減。日本のJ-クレジット制度における新規方法論が2025年12月に承認されたことを受け、商用利用とカーボンクレジット創出に向けた具体的な道筋が見えてきた。

畜産業は世界の温室効果ガス総排出量の約5%を占める主要排出源だ。

農研機構によれば、牛など反芻動物のゲップに含まれる消化管由来メタンは、国内農林水産業において稲作に続く第二のメタンガス排出源となっている。2025年末のJ-クレジット制度運営委員会での方法論承認は、日本の畜産業界にとって環境負荷軽減と収益化を両立させる画期的な転機となる。

実証では、既存の慣行飼料にボベアー®を添加し毎日同時刻に給与する手法を採用。結果、給与作業の大幅増加なく運用でき、実証期間中および終了後も牛の採食状況は良好で、牛群の行動や成長、健康状態に問題は認められなかった。この「現場での実用性」の確認が、今後の商用展開における重要な成果といえる。

ボベアー®は、牛肉や牛乳の風味・品質を維持しながら、乳牛で平均30%、肉牛(肥育牛)で平均45%の消化管由来メタンを削減する飼料添加物だ。欧州、米国、南米、豪州など世界数百の農場で既に導入されており、ディーエスエム=フィルメニッヒの試算では、現在までの累計削減量は二酸化炭素換算で約60万トンに達する。

今回の取組みで特筆すべきは、カーボンインセットの実践だ。

これはサプライチェーン外部で創出された環境価値を取り込む従来のカーボンオフセットとは異なり、サプライチェーン内で削減・除去された温室効果ガスを同一チェーン内で活用する仕組みを指す。敷島ファーム(生産者)のScope1排出量削減と、川下の食品企業などのScope3削減を同時に実現し、環境価値を付与した畜産品として販売する新しいビジネスモデルだ。

兼松とディーエスエム=フィルメニッヒは2025年7月に連携協定を締結し、ボベアー®を活用した環境価値創出と畜産品販売の共同推進を開始。今回の実証は、黒毛和牛への最適な給与条件や記録手法を検証し、Jクレジット創出に必要なデータを蓄積する狙いがあった。3社は今後、黒毛和牛を含む畜産物由来のメタン削減実績とクレジット、畜産品をセットで提供する事業を本格展開する方針だ。

栃木県と北海道で約1万頭の黒毛和牛を一貫生産する敷島ファームは、「ゼロカーボンビーフ」の実現を目指している。今回の実証成功により、国内畜産業界での脱炭素化と収益向上の両立モデルが現実味を帯びてきた。

Jクレジット方法論の承認により、日本の畜産農家は環境負荷削減とクレジット販売による収益確保の両立が可能になった。特に、カーボンインセットの枠組みは食品メーカーのScope3削減ニーズと直結し、中小規模の畜産農家にも新たな収益機会をもたらす。

今後は削減量の可視化技術と流通インフラの整備が鍵となるだろう。

参考:https://www.kanematsu.co.jp/press/release/20260209_release