自然系カーボンクレジットの創出へ 東京都、林農水スタートアップ5社の実証成果を公開

村山 大翔

村山 大翔

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東京都は、二酸化炭素除去(CDR)を目的としたカーボンクレジット創出促進事業の中間成果報告会を、令和8年1月29日に開催する。これは「ゼロエミッション東京」の実現に向け、都内の林業、農業、水産業の自然資源を活用し、CO2の吸収・除去によって生成される「吸収・除去系カーボンクレジット」の仕組みを実証したものだ。都は、本事業を通じて、市場拡大が期待されるボランタリーカーボンクレジット市場における新たなカーボンクレジット供給源の確立を目指す。

報告会の概要と事業の狙い

今回の報告会は、令和6年度に採択された5社のスタートアップによる実証事業の具体的な成果を発表する場となる。東京都は、温暖化対策においてCO2排出削減のみならず、大気中のCO2を積極的に吸収・除去する取り組みが不可欠であると認識している。そのため、都内の自然環境を最大限に活用し、民間スタートアップとの連携を通じて、カーボンクレジットの生成プロセスを確立・標準化することが、本事業の核心的な狙いである。特に、自然を基盤としたソリューション(NbS)によるCO2除去は、その持続可能性と環境共益性から、国際的に注目度が高まっている。

採択スタートアップ5社による実証内容

成果報告を行う採択スタートアップ5社は、林業、水産業、農業の各分野で、それぞれ以下の具体的な実証に取り組んできた。

  • アイフォレスト株式会社(林業)
    リモートセンシング技術を活用し、森林のCO2吸収量を算定する手法や生物多様性の定量評価モデルを実証した。これにより、日本の森林分野における新たなボランタリーカーボンクレジットの創出メカニズムを確立しようとしている。
  • クレアトゥラ株式会社(林業)
    国内外のカーボンクレジット認証機関が定める森林カーボンクレジット創出基準に対し、オープンデータを活用した解析手法を実証した。これは、データの透明性と効率性を高め、森林クレジットの認証プロセスを迅速化することに貢献する。
  • ウミトロン株式会社(水産業)
    島しょ地域で海藻の生育実証を行うとともに、遠隔地での取り組みを想定したリモートモニタリング技術の研究開発・実証を行った。海藻によるCO2吸収は、ブルーカーボンとして、特に沿岸域を持つ日本のCDRクレジットに新たな可能性を開く。
  • Green Carbon株式会社(農業)
    都内農地におけるバイオ炭施用とカーボンファーミングから生まれるカーボンクレジット創出モデルを実証した。創出されたカーボンクレジットは都内企業等へ売却され、その収益を農家へ還元するクレジット創出・活用促進モデルを構築した。
  • 株式会社フェイガー(農業)
    農業従事者が自主的かつ継続的にバイオ炭を施用する取り組みの拡大に向け、農地施用によるCO2除去効果の定量化と、バイオ炭に機能性を追加することによる生産性向上の可能性を実証した。

CDR市場へのインパクトと今後の展望

本事業の実証テーマは、森林管理、ブルーカーボン、バイオ炭といった、世界のCDR市場で最も活発な議論と投資の対象となっている領域を網羅している。特に、バイオ炭やカーボンファーミングといった農業分野での取り組みは、農業生産者の収入源確保と気候変動対策の両立を目指すものであり、日本のJ-クレジット制度における新たな方法論開発にも波及効果をもたらす可能性がある。

東京都は、これらの実証を通じて、CO2除去の信頼性の高い計測・モニタリング手法(MRV)の標準化を進め、高品質なCDRクレジットの創出と流通を促進することで、都内企業の脱炭素化支援と国内のボランタリーカーボンクレジット市場の育成を加速させる方針だ。

参考:https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2025/11/2025111907