大阪ガスとカーボンクレジットのGreen Carbonは12月15日、水田由来のカーボンクレジット創出プロジェクトにおいて、生物多様性への影響を科学的に可視化する調査に成功したと発表した。温室効果ガス(GHG)削減策として急拡大する「中干し期間延長」が生態系に悪影響を及ぼす懸念に対し、環境DNA技術を用いて実証評価を行う。
この調査結果を基に、両社は2026年春にも国内初となる「生物多様性価値」を付加した「J-クレジット」の発行・販売を目指す。
「炭素削減」と「生態系保全」の両立を実証
今回の取り組みにおける核心は、カーボンクレジットの「質」の担保にある。Green Carbonが管理する4県の水田を対象に、通常の稲作よりも期間を延ばした中干しを実施。その前後で水を採取し、大阪ガスが保有する環境DNA分析技術を用いて、トンボやカエルなど水田に生息する生物の遺伝子情報を解析した。
この調査により、中干しの延長が地域の生物多様性に及ぼす影響を定量的に評価することが可能となった。両社は現在、調査対象を他県にも拡大しており、得られたデータを基に、単なるGHG削減にとどまらない「環境価値の証明」をカーボンクレジットに付与する計画だ。
急増する水田クレジットの「死角」を解消
背景には、日本のカーボンクレジット市場における構造的な課題がある。水田から発生するメタンを抑制する「中干し期間延長」は、2023年にJ-クレジット制度の新たな方法論として承認されて以降、申請が急増している。将来的にJ-クレジット発行量全体の約3〜4割を占めるとの予測もある一方で、専門家の間では「人為的な環境変化が、水生生物の生態系を損なうのではないか」というトレードオフのリスクが懸念されていた。
今回のプロジェクトは、こうした懸念に対し科学的根拠をもって回答を示すものである。Green Carbonの大北潤代表取締役は、今回の取り組みを通じて「お客さまは環境価値を理解した上で、安心して水田J-クレジットの取引を行っていただけるようになる」との見解を示している。
世界的潮流となる「複合価値」クレジット
CO2除去や削減の効果だけでなく、地域社会や自然環境への貢献を評価する動きは、ボランタリークレジット市場(VCM)を中心に世界的な標準となりつつある。今回の大阪ガスとGreen Carbonの動きは、日本の公的制度であるJ-クレジットにおいても、こうした「炭素プラスアルファ」の付加価値競争が本格化するシグナルと言える。
2026年に発行予定の当該クレジットは、Green Carbonを通じて市場に供給される。炭素削減とネイチャーポジティブを同時に追求する企業にとって、希少性の高い調達先となる可能性がある。
クレジットの「価格」から「品質」への転換点
本件は、日本のJ-クレジット市場が成熟に向かう過程での重要な一手と言える。これまで水田由来のクレジットは「安価で大量に創出できる」点が注目されがちであったが、海外の主要な認定基準(VerraやGold Standardなど)では、すでにSDGs貢献や生物多様性保護といったコベネフィットがクレジット価格を左右する重要な要素となっています。
中小企業や地方自治体にとっても、単に「CO2を減らした」というだけでなく、「地元の生態系を守りながら脱炭素を実現した」というストーリーは、ESG投資や企業ブランディングの観点から強力な武器になります。環境DNAという先端技術が、見えにくい「自然資本」を可視化し、クレジットの単価向上に寄与するこのモデルは、今後森林やブルーカーボンなど他のセクターへも波及していくでしょう。
参考:https://www.osakagas.co.jp/company/press/pr2025/1796693_58387.html


