サプライチェーン内での脱炭素カーボンインセットを実装 兼松とすかいらーくが「環境価値付きコメ」の調達網を確立

村山 大翔

村山 大翔

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兼松とすかいらーくホールディングス(すかいらーく)は2025年12月10日、コメの生産過程で削減した温室効果ガス(GHG)を環境価値としてコメとセットで供給する「カーボンインセット」の仕組みを構築したと発表した。Green Carbonが技術支援を行い、岩手県の生産者が創出したJ-クレジットを活用することで、外食大手であるすかいらーくのScope 3(サプライチェーン排出量)削減に直結させる狙いだ。

今回の取り組みにおける最大の特長は、外部からカーボンクレジットを購入してオフセットするのではなく、自社の調達網の中で削減効果を生み出し、それを取り込む「カーボンインセット」の概念を適用した点にある。具体的には、岩手県花巻市および横手市の生産者(花巻マイブランド研究会、農事組合法人きずな)が、水稲栽培における「中干し期間」を通常より7日間以上延長することで、メタンガスの発生を抑制した。

この削減手法はJ-クレジット制度の方法論「AG-005(水稲栽培における中干し期間の延長)」に基づき、Green Carbonが定量化およびカーボンクレジット化を担当した。創出されたカーボンクレジットは、コメの物流を担うライズみちのく販売と兼松がトレーサビリティ(追跡可能性)を担保した上で、現物のコメと共にすかいらーくへ供給され、同社の排出量削減として無効化処理される。

農業由来のカーボンクレジットにおいて課題となりがちな収益還元についても、明確なモデルが示された。Green Carbonによると、本案件で創出されたカーボンクレジット価格の70%相当が生産者へ還元される仕組みとなっており、環境配慮型農業に取り組む生産者の経済的インセンティブを確保している。これにより、持続可能な原材料調達と脱炭素の両立を図る。

背景には、農林水産省が推進する「みどりの食料システム戦略」と、企業に対するScope3開示圧力の高まりがある。水田から発生するメタンは国内のメタン排出量の約4割を占めており、その削減は喫緊の課題だ。兼松とGreen Carbonは2024年5月に連携協定を締結しており、商社の供給網構築力とスタートアップの炭素定量化技術を融合させることで、今回の実装に至った。

今後について4社および生産者は、このモデルを「環境配慮米」の標準的な調達スキームとして確立し、対象地域や規模を拡大する方針だ。兼松とすかいらーくは、コメ以外の原材料においてもカーボンインセットに基づくパートナーシップを強化し、生物多様性保全も含めた持続可能なサプライチェーン構築を2026年に向けて加速させるとしている。

参考:https://www.kanematsu.co.jp/press/release/20251208_release