日本航空とANA 国際航空向け排出枠制度「CORSIA」で初のカーボンクレジット償却を実施

村山 大翔

村山 大翔

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日本航空(JAL)と全日本空輸(ANA)が、国際民間航空機関(ICAO)が運営する排出量オフセット制度「CORSIA(国際航空のための炭素オフセット・削減スキーム)」の下で、カーボンクレジットを初めて公に償却したことが明らかになった。航空業界の脱炭素化に向けた制度運用の節目となる動きである。

MSCIによると、両社が償却したのは、ガイアナ政府が主導する「ガイアナ州域REDD+プロジェクト(ART102)」から発行されたクレジットで、REDD+取引を管理する「アーキテクチャ・フォー・レッド・トランザクションズ(ART)」登録簿において取消が確認された。現在、このプロジェクトのみがICAOの排出単位基準(EUC)を満たし、ホスト国による「対応調整(Corresponding Adjustment)」が付与された唯一の案件であり、CORSIAの正式な対象カーボンクレジットとして認められている。

このカーボンクレジットは、国際航空運送協会(IATA)が2025年第2四半期に実施したオークションで1トン当たり22.25ドル(約3,400円)で落札された。第3四半期分の入札も現在進行中である。

航空会社によるボランタリーカーボンクレジットの購入はこれまでも行われてきたが、プロジェクト品質への懸念や持続可能な航空燃料(SAF)への注力により、一部では停止や縮小の動きも見られた。今回、日本の大手2社がCORSIAに基づく正式なカーボンクレジット償却に踏み切ったことで、制度に基づく実需が本格的に立ち上がりつつあるとみられる。

MSCIは最新の「2025年CORSIA見通し」で、同制度に適格なカーボンクレジット需要が2027年から2035年の間に5億〜13億トンに達し、価格は1トン当たり26ドル(約4,000円)から最大124ドル(約1万9,000円)に上昇する可能性があると試算している。供給制約が強まる中で、制度対応型炭素市場が新たな投資・監督対象として拡大していく構図だ。

MSCIは2024年に炭素市場分析のトローヴ・リサーチ(Trove Research)を買収して以降、カーボンクレジットの発行量、価格動向、適格性を追跡しており、CORSIA市場の整備における民間分析の中核的役割を担っている。

CORSIAは、国際航空のCO2排出量を2020年水準で固定し、増加分をオフセットする仕組みとして設計された。制度開始から数年を経て、今回のJAL・ANAによる初の償却は、航空業界が「理論設計段階」から「実取引段階」へと移行したことを示す象徴的な事例といえる。

参考:https://www.linkedin.com/posts/msci-carbon-markets_corsia-correspondingadjustment-activity-7379950673884295168-1KCr