福島県広野町と農業スタートアップのフェイガーは2026年2月16日、農業分野の脱炭素化と農産物のブランド価値向上を目指す包括連携協定を締結した。
J-クレジットの創出を核に、得られた収益を高温障害対策や農業DXに再投資する循環型モデルを構築する。東日本大震災からの復興を進める浜通り地域において、カーボンクレジットを「環境貢献」から「地域経済の持続的な原資」へと昇華させる先進的な試みが動き出す。
今回の提携は、復興庁の「福島復興リビングラボ」におけるマッチングを契機としている。
広野町は2050年までのゼロカーボンシティ実現を掲げており、基幹産業である農業の持続可能性が課題となっていた。提携の柱となるのは、水稲栽培における「中干し期間の延長」や「バイオ炭」の活用による温室効果ガス削減だ。これにより生成されたカーボンクレジットを企業等へ売却し、その利益を水位センサーの導入や高温耐性品種への転換といった、気候変動適応策の資金に充当する。
提携を主導するフェイガーは、農業由来カーボンクレジットのパイオニアとして知られる。同社は2024年時点で、全国36都道府県の農家と連携し、約13.6万t-CO2のカーボンクレジットを創出した実績を持つ。これは、国内の農業系J-クレジット創出において最大級の規模だ。同社の石崎貴紘代表は、複雑な申請プロセスをデジタル化し、農家の事務負担を最小限に抑えつつ、クレジット収益を農家へ還元する仕組みを確立している。
広野町で実際に中干し延長に取り組む農家の鈴木利令氏は、「環境に役立つだけでなく、食味1位、全量1等米という品質も維持できている」と手応えを語る。農業由来のカーボンクレジットは、これまで「環境意識の高い一部の農家の取り組み」と見られがちであったが、本プロジェクトではカーボンクレジット創出自体を「広野産米」の付加価値としてブランディングに活用し、市場での差別化を図る方針だ。
背景には、世界的なボランタリーカーボンクレジット市場の成熟と、日本国内におけるGX推進に伴うJ-クレジット価格の上昇がある。農業分野のカーボンクレジットは、地域の生態系保全や地方創生といったコベネフィットが評価されやすく、高単価での取引が期待される。
広野町とフェイガーは今後、このモデルを浜通り地域全体、さらには全国の自治体へと横展開し、脱炭素が地方の収益力を強化する新たなスタンダードの確立を目指す。
本件は、単なる「環境対策」を「地域経済の防衛策」へと読み替えた好例である。
特に中小規模の自治体や農業生産法人にとって、カーボンクレジットは単独ではコスト増になりかねないが、本件のようにDXやブランディングとパッケージ化することで、実利を伴う戦略に昇華できる。
今後は「カーボンクレジットが付帯した農産物」が、企業のサステナブル調達における主要な選択肢となる可能性が高い。
参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000078.000114514.html
