福岡発のESG分析スタートアップ、aiESGは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の陸域観測技術衛星「だいち」シリーズのデータを用いた事業化実証プロジェクトに採択された。ヤマハ発動機、アイフォレスト、一般社団法人ナチュラルキャピタルクレジットコンソーシアム(NCCC)と連携し、衛星観測とLiDAR(ライダー)技術を組み合わせた、森林由来ボランタリーカーボンクレジット創出」の信頼性向上を目指す。
JAXA衛星×LiDARで森林バイオマスを高精度可視化
本実証では、ALOS-2「だいち2号」および2024年打ち上げのALOS-4「だいち4号」が取得するSAR(合成開口レーダー)衛星データと、地上でのLiDAR計測を統合する。これにより、森林バイオマス量およびCO2吸収量の変化を定量化し、カーボンクレジット認証で不可欠な測定・報告・検証(MRV)工程を自動化・効率化する狙いだ。
SAR衛星はマイクロ波を利用するため、天候や日照条件に左右されず、光学衛星では観測困難な樹冠下部や雲覆域のデータ取得が可能である。これにより、森林炭素量を継続的にモニタリングし、カーボンクレジットの精度を大幅に高めることが期待されている。
森林カーボンクレジットの信頼性と市場価値を向上
日本は国土の約3分の2を森林が占め、OECD諸国の中でも有数の森林資源国である。だが、現行のJ-クレジット制度では、森林管理コストがカーボンクレジット収益を上回り、事業としての採算性に課題があった。
今回の実証では、リモートセンシング技術により吸収量の推計精度を向上させ、カーボンクレジット認定量を増加させることで、森林管理の経済的インセンティブを強化する。これにより、カーボンクレジット市場での信頼性向上と流動性拡大、さらには価格上昇につながる可能性がある。
aiESGが主導 「科学的なMRV」で新たな基準確立へ
aiESGは九州大学発のスタートアップで、温室効果ガス吸収量の算出に関するカーボンクレジット認証実績を持つ。今回のプロジェクトでは、同社が全体責任者としてデータ統合およびアルゴリズム開発を担う。
代表取締役の馬奈木俊介氏は、「衛星とAIの融合によって森林カーボンクレジットの『見える化』を進め、自治体や企業の脱炭素経営を支える新たなインフラを構築したい」と述べた。
背景に「衛星×CDR」連携強化の流れ
近年、JAXAは宇宙データの民間利用拡大を推進しており、脱炭素・自然資本分野での活用が注目されている。森林由来の炭素除去(CDR)は、企業のネットゼロ戦略の中で重要な柱とされ、グローバル市場では「高品質カーボンクレジット」への需要が急増している。
今回の実証成果が国内の森林由来カーボンクレジットの信頼性基準に反映されれば、日本発の衛星CDRモデルとして国際的な展開も視野に入る。