カーボンネガティブとは?詳しくてわかりやすくい用語解説|What Is Carbon Negative?

村山 大翔

村山 大翔

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2050年のカーボンニュートラル達成は、現在における世界の共通目標だ。しかし、気候危機を乗り越えるための道のりは、そこで終わりではない。その先にある、より野心的なゴールこそがカーボンネガティブである。

本記事では、カーボンネガティブがどのような状態を指し、なぜそれが人類の長期的な未来にとって重要なのか、そしてその壮大な目標をどう達成するのかについて解説する。

カーボンネガティブとは

カーボンネガティブとは、「温室効果ガスの排出量よりも、大気中からの除去量の方が多くなる状態」を指す。IPCCなどの科学的な文脈では、ネットネガティブエミッションとも呼ばれる概念だ。

なぜカーボンネガティブが重要なのか

カーボンネガティブは、気候を「安定」させるだけでなく、将来的に「修復」していくための唯一の道筋である。その重要性は大きく分けて3つの視点から説明できる。

気候変動の根本的な逆転

カーボンニュートラルを達成しても、大気中のCO2濃度は高いままであり、温暖化の進行が止まるに過ぎない。地球の気温を産業革命以前のレベルに向けて下げていくには、大気中からCO2を純減させるカーボンネガティブの状態を長期間維持する必要がある。

「オーバーシュート」からの回復

多くの気候シナリオにおいて、世界の平均気温上昇が一時的に1.5℃の目標を超えてしまうオーバーシュートが予測されている。この超過分を取り戻し、再び目標軌道に戻るためには、大規模なネガティブエミッション(大気からのCO2除去)が不可欠となる。

歴史的責任と公正性

国際的な視点では、先進国が率先してカーボンネガティブを目指すべきだという考え方がある。これは、産業革命以降に歴史的に排出してきた大量のCO2を「掃除」し、未来世代や途上国に対する責任を果たす行為と捉えられるためだ。

達成するための道筋

この壮大な目標は、2つの巨大な取り組みを両輪として進めることで初めて達成が可能となる。

徹底的かつ抜本的な排出削減

これが全ての前提となる。そもそも蛇口から出る水の量を、ほぼゼロに近いレベルまで減らさなければならない。再生可能エネルギーへの完全な移行、徹底的な省エネルギー、産業プロセスの電化など、社会のあらゆる部門で極めて高いレベルの排出削減が求められる。

大規模なCDRの展開

どうしても削減しきれない残余排出量を相殺し、さらにそれを上回る量のCO2を除去するために、CDR技術を社会に大規模実装する必要がある。

これには、植林やブルーカーボンといった自然の力を活用する方法から、DACCSやBECCSといった工学的技術まで、多様なアプローチを組み合わせたポートフォリオが求められる。

メリットと課題

カーボンネガティブの追求は、希望ある未来を描く一方で、現実的には極めて困難な課題も抱えている。

メリット

最大のメリットは、気候変動を根本的に逆転させるという長期的な希望を提示できる点にある。また、CDRという新しい産業を創出し、経済成長とイノベーションを促進する可能性も秘めている。さらに、全てのセクターに対して「排出ゼロ」を超えた究極の脱炭素化を目指す、強力なインセンティブとしても機能するだろう。

課題

  • 莫大なコストと技術的挑戦
    必要とされるCDRの規模は年間数十億トン単位とされており、これは現在の世界の能力を遥かに超えている。実現には天文学的なコストと、革新的な技術的ブレークスルーが必要となる。
  • 持続可能性とガバナンス
    大規模なCDRの展開にはリスクも伴う。広大な土地利用や大量のエネルギー消費が生態系へ悪影響を及ぼす懸念があるためだ。これらのリスクを管理するための強固な国際的ガバナンスが不可欠となる。
  • 国際的な公平性
    この巨大なプロジェクトにかかる費用と責任を、各国がどのように公平に分担していくか。これは極めて難解な政治的課題として立ちはだかっている。

まとめ

本記事では、カーボンネガティブがネットゼロの「次」に来る、気候変動対策の最終目標であることを解説した。

  • カーボンネガティブとは、CO2の排出量よりも除去量が多い状態を指す。
  • ネットゼロが「現状維持」なら、カーボンネガティブは「大気の修復」の始まりである。
  • 達成には、徹底的な排出削減と大規模なCDR(二酸化炭素除去)の両方が不可欠だ。

「2050年ネットゼロ」が現在の世代に課せられた緊急課題であるとすれば、「21世紀後半のカーボンネガティブ」は、私たちが未来の世代に残せる最も価値ある遺産の一つといえる。それは、人類が自ら引き起こした地球規模の問題に対し、知恵と協力によって解決に乗り出したことの証となるだろう。