パリ協定6.4条市場が本格始動 国連監督機関、高品質カーボンクレジットの「早期供給」へ加速

村山 大翔

村山 大翔

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2026年2月20日、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の監督機関は、パリ協定に基づく新たな炭素市場メカニズムにおいて、高品質なカーボンクレジットを早期に供給するための加速化計画に合意した。

これまで続いてきた「ルール作り」のフェーズから「実装・運用」へと明確に舵を切り、優先セクターの特定と技術的手法の策定を急ぐ。本決定により、信頼性の高い国連主導のクレジット供給が2026年内に本格化する見通しとなった。

実施フェーズへの移行と優先セクターの特定

新たに監督機関の議長に選出されたムクタジ・ステレキ(Mkhuthazi Steleki)氏(南アフリカ)は、「今年は実行の年である」と宣言した。今回の合意では、需要が最も強く、準備状況が整っており、かつ排出削減効果が最大化されるセクターを優先的に指定。これまで不透明だった市場供給のタイムラインを具体化させ、民間企業や加盟国が予見可能性を持って投資できる環境を整備する。

承認された新たな技術ツールと手法

本会合では、パリ協定クレジット・メカニズム(PACM)の運用に不可欠な2つの技術的ツールが採択された。

  • 電力計測ツール
    発電および電力消費に伴う排出量を正確に測定するための新基準。
  • 設備耐用年数推定ツール
    PACM関連事業で使用される設備の技術的寿命を算定し、カーボンクレジット創出期間の妥当性を担保する。

ジャッキー・ルエスガ(Jacqui Ruesga)副議長(ニュージーランド)は、「これらのツール採択は、メカニズムが実運用段階に入った証である」と強調した。

クリーン開発メカニズム(CDM)からの移行期限

京都議定書下の「クリーン開発メカニズム(CDM)」から新制度への移行についても進展があった。移行の最終期限は2026年6月30日に設定されており、既存プロジェクトの適格性審査が加速される。また、レジストリ(登録簿)における「任意キャンセル・プラットフォーム」の開発も進み、公的機関だけでなく民間セクターによる自主的な貢献も受け入れる体制を整える。

定量情報と市場インパクト

世界銀行の試算によれば、パリ協定第6条に基づく国際的な炭素市場取引が完全に機能した場合、2030年までに年間で最大2,500億ドル(約37.5兆円)のコスト削減効果を気候変動対策にもたらすとされている。

今回、国連が「高品質(High-integrity)」を掲げて供給を加速させることで、現在1トンあたり数ドル程度で低迷するボランタリークレジット市場に対し、より高いプレミアム価格が付く「国連品質」の基準が確立されることになる。

今後の展望と論点

監督機関は2026年5月18日から21日にかけて次回の会合を開催し、炭素除去(CDR)を含む吸収源活動の手法や、市場の透明性を確保するためのガバナンス体制をさらに詰める予定である。特に、エンジニアリングベースのCDR(DAC等)が本枠組みにどの程度統合されるかが、今後の日本企業の技術輸出における焦点となる。

今回の国連による「供給加速」への方針転換は、グリーンウォッシュ批判にさらされてきた炭素市場に、強力な「公的基準」という背骨を通すものだ。

日本企業にとっては、自国のJCM(二国間クレジット制度)と本メカニズムの互換性を注視しつつ、国連公認の「高品質クレジット」を調達・創出することで、Scope3対応や国際的なサステナビリティ評価の向上に直結させる好機となる。

特に技術力を持つ中堅・中小企業にとっても、計測ツールの標準化は参入障壁を下げる要因になり得る。

参考:https://unfccc.int/news/un-body-sets-fast-track-plan-to-deliver-high-quality-credits-under-paris-agreement