「気候行動の加速は今始めなければならない」 国連気候変動事務局長、NDC統合報告書で各国に加速を要請

村山 大翔

村山 大翔

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国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のサイモン・スティール事務局長は28日、各国の温室効果ガス削減目標(NDC)を総括した「NDC統合報告書」を発表し、「気候対策の方向性は毎年改善しているが、スピードを急速に上げなければならない」と警告した。報告書は、各国が提出した新世代NDCの進展を示す一方で、世界全体の排出削減は依然として1.5度目標に届いていない現状を浮き彫りにした。

パリ協定採択から10年を迎えた2025年、国連は初めて「世界全体の排出曲線が下降に転じた」と明言した。だがスティール事務局長は声明で、「まだ十分ではない。人類が生存可能な惑星を維持するためには、今すぐ行動を加速させる必要がある」と強調した。

報告書によると、9月末までに正式提出されたNDCは世界排出量の約3分の1をカバーしており、そのうち89%が経済全体を対象とする包括的目標を設定。73%は適応策を盛り込み、特に小島嶼国などが「損失と被害(Loss and Damage)」の要素を組み込む動きが広がっている。

さらに、88%の国が「グローバル・ストックテイク(GST)」の結果を参照し、81%が具体的にその反映方法を明示したと報告。性別平等、若者・地域社会の参画、公正な移行、森林や海洋の役割、そして第6条に基づくカーボン市場の活用など、幅広い要素が新世代NDCに統合されている。

スティール氏は「各国のNDCは、2030年目標から長期的なネットゼロ目標へ向けた線形的な軌道におおむね整合している」と評価する一方、「全体像は依然として限定的であり、国際的な加速が不可欠だ」と述べた。

国連による追加分析では、今年9月以降に発表・更新されたNDCも含めると、2035年までに世界の排出量が約10%減少する見通しが示された。これは初めて「排出カーブが下向きに曲がった」ことを意味するが、科学的には1.5度目標達成には「はるかに速いペース」が必要とされる。

「パリ協定にはラチェット・メカニズムがある。各国が段階的に野心を高め続けることこそが、この危機を乗り越える唯一の道だ」とスティール氏は述べ、「今こそ、その加速を始めるべき時だ」と訴えた。

同氏はまた、再生可能エネルギーが今年、初めて石炭を上回り世界最大の電源となった最新データを引用し、「クリーンエネルギー投資の爆発的な拡大が、21世紀の成長と雇用の原動力になる」と強調した。これにはカーボンクレジット市場の発展と、炭素除去(CDR)技術の商業化が不可欠だと指摘した。

実際、各国NDCの約4割がカーボン市場や除去技術の活用を明記しており、森林吸収源の拡大や直接空気回収(DAC)などのCDR技術が政策に組み込まれつつある。国連は今後、こうした取り組みを支援するための資金・制度面の指針をCOP30(ブラジル・ベレン開催予定)で提示する方針だ。

スティール氏は結びで、「我々はまだ競争の途中にある」と述べ、次の3点をCOP30での最重要課題として掲げた。

  1. 各国が協調を維持する明確な政治的シグナルの発出
  2. 全経済セクターにおける実施加速
  3. 気候行動の成果をすべての人々が共有できるようにすること

「地球80億人のために、今こそスピードを上げる時だ」と同氏は呼びかけた。

参考:https://unfccc.int/news/the-direction-of-travel-improving-every-year-but-we-need-to-urgently-pick-up-the-pace-un-climate