英国政府は11月26日、2027年1月から導入予定の「炭素国境調整メカニズム(CBAM)」に関する法案協議の結果および更新情報を公表した。2025-26年度財政法案(Finance Bill)を通じて法制化を進める方針を確定する一方、当初の計画を変更し、電力消費などに伴う「間接排出」については制度開始時の適用を見送り、2029年以降まで延期することを明らかにした。国内のエネルギー多消費産業(EII)への配慮と、英国排出量取引制度(UK ETS)との連動を最適化する狙いがある。
間接排出の適用除外と産業保護
政府は、2025年4月に実施した技術協議の結果を踏まえ、CBAM対象製品の生産プロセスで使用される電力などに起因する「間接排出(Indirect Emissions)」を、2027年1月の制度開始時点では課税スコープに含めないことを決定した。間接排出の適用は、早くとも2029年まで延期される。
この延期措置は、英国内の「エネルギー多消費産業(EII)補償スキーム」による継続的な支援体制との整合性を図るためのものだ。また、石油精製製品については、エネルギー安全保障および産業基盤における役割を考慮し、別途「証拠募集(Call for Evidence)」を実施する。その結果を踏まえ、将来的に精製製品をCBAMの対象に含めるかどうかの実現可能性と影響を検討する方針だ。
UK ETS無償割当廃止との連動を強化
炭素市場のメカニズムにおいては、CBAM税率の計算に関わる「無償割当調整」の規定に重要な技術的変更が加えられた。輸入製品に課される炭素価格の調整(減免)幅は、基準期間における無償割当(Free Allowances)のセクター平均に基づいて算出される。
特筆すべきは、この調整額が「英国排出量取引制度(UK ETS)」の下で進められる無償割当の段階的廃止(フェーズアウト)を反映し、毎年再調整される点である。これにより、国内生産者が負担する実質的な炭素コストの上昇に合わせて、輸入品への課金レベルも動的に調整され、カーボンリーケージ(炭素漏出)を防止する制度設計が強化された。
二重課税防止と国際的相互運用性
制度の実効性を高めるため、以下の技術的規定も追加・修正された。
- 他国制度との調整
他の管轄区域における炭素国境調整メカニズムの下で発生した炭素価格を認識し、控除対象とする「炭素価格リリーフ」の適用範囲を拡張した。 - 英国産前駆物質の免除
複雑なCBAM対象製品の一部として英国に再輸入される「英国産前駆物質(precursor goods)」に含まれる排出量については、適用除外とする。これにより、同一製品に対して炭素価格を二重に支払うリスクを回避し、企業の事務負担を軽減する。 - 一時輸入の免除
関税の完全免除を伴う「一時輸入(temporary admission)」扱いの製品については、英国市場に流入せず炭素漏出リスクがないと判断され、CBAMの適用外となる。
今後のスケジュール
英歳入関税庁(HMRC)は、2025-26年度財政法案への法案提出に続き、2026年初頭に二次法案および通知の草案を公開し、技術協議を行う予定だ。企業が新税制に対応し要件を満たすために不可欠となる詳細なガイダンスは、2027年1月1日の施行に先立って公表される。
