韓国取引所(KRX)が2025年12月10日に実施した炭素排出枠(KAU)の定例オークションにおいて、供給された400万トン(CO2換算)すべてが完売し、2025年で最大の取引量を記録したことが明らかになった。11月のオークションでは未達が発生していたが、2026年から始まる排出量取引制度(K-ETS)第4期に向けた規制強化への懸念から、市場参加者の駆け込み需要が鮮明となった形だ。
第4期K-ETSへの警戒感が需要を牽引
今回のオークションにおける清算価格は、トン当たり1万550ウォン(約1,160円)で決定した。前月の1万500ウォンからわずかな上昇にとどまったものの、特筆すべきはその需要の強さである。
11月のオークションでは、供給された400万トンのうち361万トンしか落札されず、需要不足が露呈していた。しかし、12月は一転して超過需要となり、参加した6社が「2025年ヴィンテージ」の排出枠をすべて買い占める結果となった。
市場分析によると、この急激な需要回復の背景には、2026年に開始されるK-ETS「第4期」への警戒感がある。次期フェーズでは、政府から企業への無償割当が減少し、オークションを通じた有償割当比率(Paid Allocation Ratio)が引き上げられる見通しだ。これにより将来的な炭素価格の上昇が予測されるため、企業は相対的に安価な現行フェーズでの枠確保を急いだと見られる。
KRXの「バリューアップ」と炭素経営の連動
オークションを主催する韓国取引所(KRX)は、株式市場全体においても企業の質的向上を促す「企業価値向上(バリューアップ)プログラム」を強力に推進している。
同取引所が発表した「2025年11月バリューアップ月次報告書」によると、2025年11月末時点でLGグループ(8社)、ロッテグループ(3社)、SKグループ(2社)を含む主要コングロマリットなど計170社が企業価値向上計画を開示している。これらの取り組みにより、韓国バリューアップ指数は11月3日に過去最高値の1,758.31ポイントを記録するなど、市場の評価は高まりを見せている。
しかし、今回排出枠を購入したようなエネルギー多消費企業にとって、K-ETSへの対応コストは財務上の重大なリスク要因である。SKグループのSKスクエアなどが株主還元策として自社株買いや消却を進める一方で、裏側では炭素コストの上昇に備えた排出枠の戦略的調達が不可欠となっている構図が浮かび上がる。
今後の展望
K-ETS第4期の詳細設計と、それに伴う有償割当比率の確定は、韓国企業の財務戦略に直接的な影響を与える。投資家にとっては、KRXが推進する株主価値の向上施策(配当や自社株買い)と並行して、各社の炭素負債(Carbon Liability)への対応力が、真の企業価値を見極める重要な指標となりそうだ。

