ケニア初のDAC実証へ 「信頼」を武器にグローバルサウスの脱炭素モデル構築

村山 大翔

村山 大翔

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炭素除去(CDR)スタートアップのオクタビア・カーボン(Octavia Carbon)は、ケニアでグローバルサウス初となる直接空気回収(DAC)プラント「プロジェクト・ハミングバード」を建設している。独立したデジタル測定・報告・検証(dMRV)を組み込み、カーボンクレジットの信頼性を担保する仕組みで国際市場に挑む。2022年設立の同社は、現地に根差した人材育成やジェンダー平等の取り組みも進めており、技術革新と地域社会の双方で存在感を強めている。

DACは空気中からCO2を直接回収し、岩石層やコンクリートなどに長期貯留する技術だが、商品が「目に見えない」ため、購入者から品質や真偽を疑われやすい。とりわけグローバルサウスのプロジェクトには厳しい視線が向けられる。

オクタビアはこの課題に対し、独立機関カーボンフューチャー(Carbonfuture)の「MRV+」を導入。電源構成や資材投入量、ライフサイクル排出までを一元的に追跡できる体制を整えた。共同創業者で最高技術責任者のダンカン・カリウキ氏は「無形の商品だからこそ、顧客が安心できるデータを示すことが差別化の要だ」と述べている

プラント建設地はケニアを縦断する大地溝帯。地熱資源に恵まれ、CO2の鉱物固定に適した玄武岩が豊富に存在する。捕集と貯留を同時に進められる環境は世界的にも稀だ。パートナー企業セラ・ミネラル・ストレージ(Cella Mineral Storage)との協業で、CO2を地下に効率的に注入・固定する仕組みを実現している。

同社は外部技術に依存せず独自DAC装置を開発。初号機はわずか6か月で設計から稼働に至った。今年投入した第2世代機は捕集効率が12倍、エネルギー効率も向上し、単位コストは半減したという。こうした進歩により、格付け機関ビーゼロ(BeZero)から炭素除去プロジェクトとしては異例の「AAA」評価を獲得し、複数年契約も成立させた。

品質はコベネフィット(Co-benefit)の観点からも評価されている。単なる気候変動対応のみが目的では無く、地域社会の成長を同時に目指しており、従業員は70人規模で大半がケニア人。2025年には女子生徒400人に生理用品を配布し、1,000人超の若者に健康教育を行う「ブレイキング・バリアーズ」プログラムを開始。さらにグリーンスキル研修や徒弟制度を通じて、学生から正規雇用への道も開いている。

カリウキ氏は「北半球諸国は繁栄によって気候変動に対する耐性を持っている。私たちにとって繁栄を築くことは、気候変動の影響に立ち向かう防御策でもある」と語る。

オクタビアは現在、第2世代プラントの拡張に着手しており、複数モジュールを備えた規模拡大型DAC施設の建設が進む。2030年代前半には数十万トン規模のCO2除去を目指している。グローバルサウス発のDAC事業として、技術革新と社会貢献を両立させながら、グローバルのカーボンクレジット市場での信頼確立を狙う。

参考:https://www.carbonfuture.earth/case-studies/octavia-carbon