メリーランド州が「キャップ・アンド・インベスト」導入を再提言 炭素市場の拡大で年間1,510億円の財源確保へ

村山 大翔

村山 大翔

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メリーランド州気候変動委員会(Maryland Commission on Climate Change: MCCC)は2025年12月23日、2025年次報告書を公表し、州経済全域を対象とした「キャップ・アンド・インベスト(排出枠取引と投資の連動制度)」プログラムの導入検討を改めて提言した。

同プログラムは、連邦政府による気候政策の撤回という「逆風」に直面するなか、同州が掲げる2031年までの温室効果ガス(GHG)排出量60%削減目標を達成するための鍵と位置付けられている。制度導入により、クリーンエネルギーや脱炭素プロジェクトに向けた約10億ドル(約1,510億円)規模の年間財源を創出する狙いだ。

今回の提言は、現行政策だけでは2031年の目標達成に向け、二酸化炭素(CO2)換算で約350万トンの削減が不足するという予測に基づいている。MCCCは2024年にも同様の提案を行っており、2025年報告書ではその重要性をさらに強調した。対象セクターは、既存の「地域温室効果ガス・イニシアチブ(RGGI)」がカバーする発電部門を超え、輸送および建築部門にも拡大される見通しである。

財源の活用については、戦略的エネルギー投資基金(Strategic Energy Investment Fund: SEIF)の残高を優先的に再生可能エネルギー建設やエネルギー効率化、さらには低所得世帯への光熱費支援に充てるべきだと指摘している。また、制度設計においては、低所得層に経済的負担を転嫁しないよう「配当」の分配を含めた保護策を講じることも求めた。

政策面では他にも、輸送部門の排出削減を加速させる「低炭素燃料基準(LCFS)」の導入検討をメリーランド州環境局(Maryland Department of the Environment: MDE)に要請した。連邦政府による自動車・トラックの排出規制緩和に対抗する措置として、2026年12月31日までに環境・経済への影響分析を完了させる計画である。

さらに注目されるのが、歴史的な気候被害に対する化石燃料企業の責任を問う「気候スーパーファンド」調査の進展だ。ウェス・ムーア(Wes Moore)州知事は2025年12月、当初拒否権を発動していた関連法案の資金拠出を決定し、議会も拒否権を覆して成立させた。これにより、ブルック・リアマン(Brooke Lierman)監査官が主導し、1995年から2024年の間に10億トン以上のGHGを排出した企業に対し、州の適応費用を負担させる妥当性を評価する包括的調査が開始される。この調査結果は2026年12月1日までに報告される予定だ。

MCCCのセレーナ・マキルウェイン(Serena Mcllwain)議長は、2024年が観測史上最も暑い年となったことに触れ、「科学が求めるペースで排出を削減するだけでなく、すべてのコミュニティの回復力を強化する大胆な戦略が必要だ」と述べ、実装に向けた決意を強調した。

参考:https://mde.maryland.gov/programs/air/ClimateChange/MCCC/Documents/MCCC%20Annual%20Report/2025%20MCCC%20Annual%20Report/MCCC_Annual_Report_2025.pdf

参考:https://mde.maryland.gov/programs/air/ClimateChange/MCCC/Commission/Final_2025%20MCCC%20Recommendations.pdf