JDRがリバプール湾CCSで送電幹線 「約100キロの海底電力ケーブル」供給契約を獲得、HyNet基盤の電化整備

村山 大翔

村山 大翔

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英ハートルプールの海底ケーブル大手JDRケーブル・システムズ(JDR)は、8月27日、エニ(Eni SpA)傘下のリバプール・ベイCCSリミテッド(Liverpool Bay CCS Limited)から、リバプール湾CO2輸送・貯留事業向け海底電力ケーブルの供給契約を受注した。JDR発表によると、JDRは33キロボルト級の海底ケーブル約100キロを製造・納入し、湾内の既存オフショアプラットフォームを電化してCO2圧入を支える。事業は英国の産業脱炭素クラスター「ハイネット・ノースウェスト(HyNet North West)」の中核で、初期段階で年最大450万トン、2030年代に年1,000万トンまでのCO2処理を見込む。

契約は4本の電力ケーブルで構成される。陸上と最初のプラットフォームを結ぶ1本に加え、追加プラットフォームを相互接続するインフィールドケーブル3本で、圧入井に電力を安定供給する。芯材はアルミと銅の組み合わせで、製造はJDRのハートルプール既存工場と新設のブライス高電圧工場で分担する。英国国内サプライチェーンの活用により、工程短縮と運用保守の一体化を図る。

ハイネットは、イングランド北西部で水素製造と炭素回収・貯留(CCS)を統合する政府支援の「トラック1」クラスターである。上流の排出源からCO2を回収し、パイプラインとオフショア設備で輸送、リバプール湾の枯渇貯留層へ地層注入する。JDRの電化パッケージは、圧入設備の稼働信頼性を高め、メンテナンス時の発電機運転を削減することで間接排出の低減にも寄与する。

JDRのフローティング風力・電化担当セールスディレクター、ロリー・グラハム氏は「当社の電力ケーブルで沖合インフラを英国系統に結ぶことで、安全かつ効率的なCO2圧入を実現し、運用の環境負荷も抑制できる。CCSは英国のエネルギー転換を支える主要分野だ」と述べた。

同プロジェクトは、ベースロード級のCO2貯留容量を早期に立ち上げ、地域製造業の排出削減を支えるとともに、将来の規模拡大に備える。電力ケーブルの敷設完了はハイネットの「中盤の10年」稼働目標に連動し、今後は海底敷設・試験、圧入開始に向けた系統連系試験が焦点となる。英国の産業向け排出削減策が進むなか、電化インフラはCCSクラスターの稼働率とコスト競争力を左右する要素であり、今回の受注は国内製造拠点の活用と合わせ、運用期の信頼性確保に直結する。

HyNetの初期処理量(年最大450万トン)は、欧州の他クラスターと比べても上位規模である。電力側の安定供給が確保されれば、圧入設備の稼働率が高まり、保守停止時のダウンタイム短縮や圧入コントロールの精緻化が期待できる。これにより、回収源との長期契約の履行性が高まり、企業側の排出削減計画や将来のクレジット制度整備における信頼性指標として作用する可能性がある。

今後は、系統接続の最終設計、海底ルートの環境許認可、据付ウィンドウの確保が並行して進む。英国のネットゼロ目標に向け、ハイネットの初期運転開始時期の確定が次の節目となる。

参考:https://www.jdrcables.com/news-centre/press-releases/jdr-to-electrify-enis-liverpool-bay-transportation-and-storage-project-with-power-cable-supply-helping-deliver-hynet-nor,1710