InSoilとKey Carbonが160億円の協定 欧州農地で「再生型農業」とカーボンクレジット創出を加速

村山 大翔

村山 大翔

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リトアニアの気候金融企業インソイル(InSoil)と、ボランタリーカーボンクレジット市場の大手キー・カーボン(Key Carbon)は6月10日、1億ユーロ(約165億円)規模の資金協定を締結した。これにより欧州の中小農家が再生型農業へ移行し、炭素吸収を高める取り組みが大きく加速する見通しだ。協定は2026年までに100万ヘクタールの農地を対象とし、累計3,500万トン超のCO2吸収を目指す。

インソイルは、キー・カーボンからの無利子「グリーンローン(Green Loans)」向け投資を通じ、農家の転換資金を確保する。キー・カーボンは1億ユーロ超の投資権を得ると同時に、ロイヤリティ契約として370万ユーロ(約6億円)の出資を行い、欧州全域での事業拡大を支援する。この枠組みにより、農家は再生型農業の導入に必要な資金を得ると同時に、生成したカーボンクレジットの一部をキー・カーボンに譲渡する形でリターンを得る。

インソイルのラィモナス・ノレイカ最高経営責任者(CEO)は「気候変動と規制の逆風に直面する欧州の農家にとって、こうした金融・農業支援は炭素吸収を実現する構造的転換の鍵だ。キー・カーボンとの提携により、より多くの農家に支援を届け、高品質なカーボンクレジットを生み出す」と述べた。

キー・カーボンのルーク・レスリーCEOも「企業のカーボンクレジット需要は『除去型』かつ『地域密着型』の高品質案件に移行している。インソイルは農業知見と現地ネットワークを備え、信頼性ある炭素吸収を実現できる」と指摘した。

今回の協定は、欧州の気候レジリエンス型農業における最大規模の資金コミットメントの一つとされる。慣行農業が世界温室効果ガス(GHG)排出の約20%を占める一方、土壌は大気中CO2を吸収する重要な「カーボンシンク(炭素貯留源)」と見なされている。両社は、EUが策定中の「炭素除去認証枠組み(CRCF)」に準拠し、科学的検証と第三者認証を受けた高品質クレジットを創出する方針だ。

インソイルはすでに3,000戸超の農家に総額8,000万ユーロ(約132億円)の融資を実施しており、今回の資金拡充でさらなる事業拡大を図る。測定・報告・検証(MRV)体制では、土壌サンプリングやリモートセンシング、専門家評価を組み合わせ、透明性と信頼性を確保している。

キー・カーボンは2021年設立以来、15カ国で25件のプロジェクトに資金を提供し、累計4,100万トンのCO2削減・吸収を達成している。アフリカでは「グローバル・クックストーブズ」事業を通じ、7百万人以上にクリーン調理器具を供給してきた。

両社の提携は、自然資本を活用した「脱炭素型農業金融モデル」として注目される。土壌を「炭素吸収源かつ収益源」と位置付ける新たな金融スキームが、欧州全域に拡がるかが焦点となる。

参考:https://insoil.com/blog/2025/06/10/insoil-key-carbon-100m-regenerative-agriculture-europe/