EU「産業加速法」案を来週発表 再エネ・水素設備に「域内調達」義務付け

村山 大翔

村山 大翔

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欧州委員会は2026年2月26日、域内のグリーンテクノロジー産業を保護し、中国や米国との競争力を強化するための新法案「産業加速法(Industrial Accelerator Act)」を提出する。

この法案は、公的資金が投入される戦略的プロジェクトに対し、一定割合の「欧州産」製品の使用を義務付けるものであり、太陽光、風力、水素、蓄電池、原子力といった脱炭素の基幹技術が対象となる。欧州の公的調達市場は年間2兆ユーロ(約364兆円)に達し、この巨大な購買力を背景に域内サプライチェーンの再構築と、炭素除去(CDR)技術を含む低炭素製品の市場浸透を加速させる狙いだ。

ロイターが報じた入手した草案によると、本法案は特定の戦略的分野において、製品の価値や構成要素に基づいた厳格な域内調達率を規定している。例えば、太陽光パネルでは導入1年後からインバーターを含む主要2部品、3年後には3部品の欧州製造を義務付ける。電気自動車(EV)については、公的調達やリース対象となる車両は域内で組み立てられ、かつバッテリーを除く構成部品の70%(価値ベース)が欧州産であることを求める。

また、本法案は「カーボンクレジット」の創出や取引にも影響を与える「低炭素要件」を盛り込んでいる。補助金を受けるアルミニウム製造には25%以上の欧州産および低炭素基準の遵守を求め、鉄鋼製品に対しては温室効果ガス(GHG)排出強度の任意ラベル制度を導入する。これにより、排出削減が困難なハード・トゥ・アベート分野における「グリーン鋼材」の価値を可視化し、将来的なカーボンクレジットの質的評価や価格形成に寄与する仕組みを整える。

法案には、世界の製造能力の40%以上を占める国からの1億ユーロ(約182億円)を超える投資に対し、厳格な条件を課す条項も含まれている。対象となる外国投資家は、欧州企業の過半数株式を保有できず、知的財産のライセンス供与を求められる可能性がある。

この「欧州優先主義」に対し、域内でも意見が割れている。フランスのステファン・セジュルネ欧州委員が強く支持する一方、スウェーデンやチェコは投資の阻害やコスト上昇を懸念している。ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は、域内調達義務は「最終手段」であるべきだとの慎重な姿勢を示しており、他国との協力を含めた「メイド・ウィズ・ヨーロッパ(Made with Europe)」というより柔軟なアプローチを提案している。

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法案は2月26日の発表後、欧州議会および加盟国間での交渉に移る。定義上の「欧州」には欧州経済領域(EEA)の27カ国にアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーを含むが、英国は除外される見通しだ。ただし、製品が世界で1社しか製造されていない場合や、欧州産への切り替えが30%以上のコスト増を招く場合には、例外措置が認められる。

本法案は、単なる産業保護に留まらず、製品の「炭素強度」を公的調達の基準に据えた点が極めて重要だ。

これは、欧州市場への参入を目指す日本企業にとって、製品のライフサイクルアセスメント(LCA)に基づく排出量データの透明化が必須となることを意味する。特に水素製造設備やCDR関連機器を手掛けるメーカーは、域内での製造拠点確保だけでなく、低炭素価値をカーボンクレジット化し、欧州の厳格な基準に適合させる戦略が求められるだろう。

参考:https://www.reuters.com/sustainability/boards-policy-regulation/what-is-eus-draft-made-europe-law-2026-02-17/