欧州委員会は8日、自動車部門の脱炭素化に関する重要提案の公表を1週間延期し、12月16日とする方針を固めたとロイター通信が報じた。ロイター通信が確認した内部草案によれば、世界初となる国境炭素調整措置(CBAM)の対象品目拡大計画についても、同時に公表が先送りされる公算が高まっている。
当初11日の公表が予定されていたこの政策パッケージには、欧州連合(EU)の炭素国境調整メカニズム(CBAM)の適用範囲を、従来の素材産業から洗濯機などの加工製品にまで広げる案が含まれていた。CBAMは、鉄鋼やアルミニウム、セメントなどの輸入製品に対し、その製造過程で排出されたCO2量に応じた課金を義務付ける制度であり、1月からの本格適用を控えている。今回の延期対象には、対象品目の拡大に加え、外国企業による制度の抜け穴利用を防ぐための迂回防止策も含まれているとみられる。
同時に延期された自動車規制案は、2035年以降のCO2排出車の新車販売を事実上禁止する現行方針に対し、修正を加える可能性があるとして市場の関心を集めている。ドイツやイタリア政府は、電気自動車(EV)販売の減速や中国勢との競争激化を背景に、作物や廃棄物由来の合成燃料(e-fuel)などを利用する内燃機関車(プラグインハイブリッド車等)の販売継続を求めており、自動車メーカー側も規制への柔軟性を強く主張している。
しかし、こうした規制の緩和は、2050年までに経済全体でネットゼロを達成するというEUの気候目標の達成を困難にする恐れがある。排出削減のロードマップ変更が、将来的なカーボンクレジット需要やカーボンオフセット戦略に影響を与える可能性も否定できない。イタリアの自動車産業集積地であるロンバルディア州のグイド・グイデージ(Guido Guidesi)経済開発担当評議員は、「これ以上の延期や遅延は容認できない。時間は残されておらず、数百万人の雇用と産業全体が危険にさらされている」と述べ、政策決定の遅れが招く不透明感に強い懸念を示した。
また、草案では、地元製品の優先購入を促す「産業アクセラレーター」政策の発表も1月28日まで延期される見通しだ。フランスなどが推進するこの「バイ・ローカル」政策に対しては、スウェーデンやチェコなどが投資阻害や政府調達価格の高騰を招き、EUの国際競争力を損なうと警告しており、加盟国間での意見対立が続いている。欧州委員会の広報官は自動車関連提案の新たな日程を認めたものの、CBAM拡大を含むその他の政策時期については明言を避けており、年内の最終合意に向けた部局間の調整が続いている。

