CURA 電気化学技術でセメント由来CO2を最大85%削減へ カナダ発クライメートテックが脱ステルス

村山 大翔

村山 大翔

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カナダ・バンクーバー発の気候技術スタートアップ、キュラ(CURA)は11月4日、セメント製造に伴うCO2排出を最大85%削減できる新しい電気化学プロセスを公表した。セメント産業は世界のCO2排出量の約8%を占め、脱炭素化が最も困難な分野の一つとされる。CURAの技術は、石灰石を電力で分解して「ゼロカーボン石灰」と純粋なCO2を生成し、従来の焼成炉に入る前段階で排出源を根本的に断つ仕組みだ。

「前処理段階で排出ゼロ」 既存設備にも後付け可能

CURAのエリン・ボビッキCEOは「セメントは気候変動対策における最後の難題の一つであり、製造方法の抜本的転換が不可欠だ」と述べ、「CURAの技術は既存の工場設備を再設計せずに導入できる後付け型の脱炭素ソリューションだ」と強調した。

電気化学的な「プレカルシネーション(前焼成)」技術により、石灰石を加熱する前にCO2を分離・回収できる。生成される純CO2は、炭素除去(CDR)や産業利用に転用可能で、生成された石灰を用いて低炭素セメントを製造する。これにより、エネルギー使用量と製造コストも低減できるという。

実証段階へ 10,000トン規模プラントを3年以内に

CURAはまず、年間処理能力100トン規模のパイロット設備をカナダ国内で稼働させ、今後3年以内に1万トン規模の実証プラントへ拡張する計画だ。現在、国際的インフラ開発企業との初の開発提携を進めており、主要セメントメーカーと実運用環境での検証を予定している。

同社はまた、科学技術ベンチャーのアクセラレーション・プログラム「Creative Destruction Lab(クリエイティブ・デストラクション・ラボ)」パリ拠点の「Climate Stream」に採択されており、世界的な支援ネットワークを得てスケールアップを進めている。

「スケール次第で業界の標準技術に」

カナダセメント協会(Cement Association of Canada)元環境担当副社長のケン・カルルスカ氏は、「CURAがスケールアップ目標を達成すれば、2030年および2050年の排出削減目標を現実的に達成できる、最も導入可能性の高い技術の一つになり得る」と評価した。

同社の共同創業者には、CDRや産業脱炭素化に携わってきたフィル・デ・ルナCTO、電気化学システム研究者のサブリナ・スコットCOO、気候テック起業家のカーティス・バーリンゲット科学顧問らが名を連ねる。ボビッキ氏自身も、低炭素セメントを手がけるブリムストーン(Brimstone)や水素技術ベンチャーオーロラ・ハイドロジェン(Aurora Hydrogen)での経験を持つ。

脱炭素の焦点は「排出前処理」へ

セメント産業では、石灰石を焼成する際に発生する「プロセス排出」が全体の約60%を占める。CURAの技術はこの排出を焼成炉の上流段階で分離・固定する点に革新性があり、炭素回収・貯留(CCS)と親和性が高い。こうした「前処理型脱炭素」は、設備改修を最小限に抑えつつ排出削減効果を最大化する新潮流となりつつある。

CURAは今後、グローバルなセメントメーカーや建設資材企業との提携を強化し、2030年代前半までに商業化段階への移行を目指す。

参考:https://curaclimate.com/cura-emerges-from-stealth-with-breakthrough-tech-to-slash-cement-emissions/