CRC、火力発電の脱炭素化を加速 「ミドル・リバー・パワー」とCCS事業で提携

村山 大翔

村山 大翔

「CRC、火力発電の脱炭素化を加速 「ミドル・リバー・パワー」とCCS事業で提携」のアイキャッチ画像

カリフォルニア・リソーシズ・コーポレーション(California Resources Corporation:CRC)は2025年12月16日、独立系発電事業者のミドル・リバー・パワー(Middle River Power:MRP)と、カリフォルニア州内の火力発電所における二酸化炭素(CO2)の回収・輸送・地下貯留(CCS)に関する基本合意書(MOU)を締結した。

今回の提携により、CRC傘下のカーボン・テラヴォルト(Carbon TerraVault:CTV)が、合計1,180メガワット(MW)の発電容量を持つ2カ所のガス火力発電所に対し、排出されるCO2の輸送と地下貯留サービスを独占的に提供する。年間最大275万トンのCO2削減を目指すこの取り組みは、電力の安定供給を維持しながら州の気候変動目標を達成するための重要な一歩となる。

対象となる施設は、ビクタービルにある850メガワット(MW)の「ハイ・デザート(High Desert)」発電所と、トレーシー近郊にある330メガワット(MW)の「サン・ホアキン・エナジー・センター(San Joaquin Energy Center)」の2拠点である。それぞれの年間CO2排出量は、ハイ・デザートが最大210万トン、サン・ホアキンが最大65万トンに上る。CTVは、これらの施設から排出されるCO2を回収し、枯渇した油ガス田などの地下貯留層へ永続的に封じ込める役割を担う。

CRCのフランシスコ・レオン最高経営責任者(CEO)は「今回の合意は、既存の火力発電所を対象としたCCSソリューションの拡張性と実行可能性を示すものだ」と述べた。レオン氏は、州政府による炭素輸送と貯留に関する法的枠組みの整備が、今回の提携を後押ししたと強調している。また、MRPのマーク・クボウ最高経営責任者(CEO)は「既存の発電インフラを脱炭素化することは、クリーンで信頼性の高いエネルギーを州に提供するための戦略的な進展である」と指摘した。

今回のプロジェクトは、CRCにとって北カリフォルニアの発電所を対象とした初のCCS事業であり、既存の発電資産を保有するオーナーとの提携としては3例目となる。同社はかつての石油・ガス生産で培った地下構造の専門知識と既存インフラを再利用し、排出企業向けのサービスプロバイダーへと業態転換を進めている。関連する投資規模の一例として、CRCは既にブルックフィールド・アセット・マネジメント(Brookfield Asset Management)から5億ドル(約780億円)の出資を受けており、CCS事業の加速に向けた資本基盤を強化している。

背景には、再生可能エネルギーの導入が進む一方で、その間欠性を補うために火力発電の維持が不可欠となっているカリフォルニア州のエネルギー事情がある。州当局は、ネットゼロ達成のために既存のガス火力発電所にCCSを導入することを現実的な選択肢として検討し始めている。今回のMOUは法的拘束力を持たない段階だが、今後、技術的実現可能性の評価やコスト精査、そして米国環境保護庁(EPA)によるクラスVIウェル(CO2圧入専用井戸)の許可取得といったプロセスが進められる。

今後は、両社による詳細な技術評価を経て、最終投資決定に向けた協議が継続される。順調に進めば、カリフォルニア州における既存産業の脱炭素化モデルとして、他の発電事業者や産業部門にも波及する可能性がある。

今回のニュースは、かつてカリフォルニア最大の石油生産者であったCRCが、自社の「負の資産」ともなりかねない枯渇油田や掘削技術を、CCSという「成長エンジン」へ見事に再定義している点に注目すべきだ。

特筆すべきは、これが「新規建設」ではなく「ブラウンフィールド(既存施設)」を対象としている点。

日本では「石炭火力の廃止」が議論の中心になりがちですが、米国、特に電力需要が逼迫するカリフォルニアでは、「既存資産をいかに延命しながらクリーンにするか」という実利的なアプローチが先行してる。

これは、電力の安定供給と脱炭素のジレンマに悩む日本の中小・地方自治体や、既存の化石燃料関連インフラを持つ企業にとって、極めて示唆に富むビジネスモデルと言えるだろう。

参考:https://www.crc.com/news-releases/news-release-details/california-resources-corporation-and-middle-river-power-advance