米国の炭素除去(CDR)技術企業カーボンキャプチャー(Carbon Capture)のカナダ子会社トゥルーノース・カーボン(True North Carbon)は、アルバータ州ディープスカイ・アルファ(Deep Sky Alpha)施設で、大気中のCO2を年間最大2,000トン除去する「プロジェクト・タマラック(Project Tamarack)」を立ち上げると発表した。単一技術としてはカナダ史上最大規模の空気直接回収(DAC)設備となり、10月下旬に「ファースト・キャプチャー」記念式典が予定されている。
今回の移設は、米国エネルギー省が2025年10月2日に数十億ドル規模のクリーンエネルギー助成金を打ち切ったことを受けた戦略的決断である。もともと本プロジェクトはアリゾナ州での稼働を計画していたが、補助金の打ち切りを受けて、より支援的な政策環境を持つカナダ・アルバータ州へ拠点を移す形となった。
プロジェクト・タマラックは、同州が有する世界屈指のCO2貯留地質構造や成熟した炭素回収・利用・貯留(CCUS)産業、エネルギー人材、そして投資家に開かれた制度を背景に実現した。
カーボンキャプチャーのエイドリアン・コーレスCEOは「アルバータ州は今やカナダ最大のDAC商業システムの拠点となり、気候影響や製造、既存産業支援に向けた拡張可能な道筋を生み出す」と述べた。
同州の政府系投資機関インベスト・アルバータ(Invest Alberta)のリック・クリスティアンスCEOも、「本プロジェクトの誘致は、アルバータがカーボンニュートラル産業を支える革新的かつ投資家に優しいビジネス環境を持つことへの信任投票だ」と歓迎した。
タマラックは、太陽光100%で駆動する省エネルギー型DACモジュールを採用し、キロトン級からメガトン級への拡張を可能とする設計だ。施設運営・再エネ供給・CO2輸送・貯留は、ホスト企業ディープスカイ(Deep Sky)が担う。
また、発行するカーボンクレジットの信頼性確保のため、世界最大級のCDRレジストリ、Isometricと提携。測定・報告・検証(MRV)を通じて、1クレジット=1トンの実除去を保証する。
プロジェクト・タマラックは、カナダ企業が自国内で発行された永続的かつ検証済みのカーボンクレジットを購入できる初の大規模枠組みとなる見通しだ。アルバータ州の排出取引制度「TIER規制」にも整合し、今後のCCUS統合型脱炭素戦略「パスウェイズ・プロジェクト」などへの橋渡し役を果たす。
さらに、地元・先住民コミュニティとの教育・協働を通じ、地域経済の新たな雇用創出と透明性確保を目指す。鉄鋼などカナダ企業が新たな炭素除去バリューチェーンに参入する機会も広がるとみられる。
カーボンキャプチャーは、米ワイオミング州での大規模DAC拠点「プロジェクト・バイソン(Project Bison)」の開発を一時停止しており、今回のカナダ移転は北米の炭素除去産業における地政学的シフトを象徴する。
政策支援と市場信頼性の両立を果たすアルバータ州モデルは、今後、日本を含む他国のCDR投資戦略にも影響を与える可能性がある。