カーボンクレジットの科学的評価を専門とする米カーボンダイレクト(Carbon Direct)は11月10日、森林由来の炭素除去(CDR)プロジェクトのデジタル検証(MRV)を手がけるクライメートテック企業パチャマ(Pachama)を買収したと発表した。買収額は非公表。AIと衛星データを駆使したパチャマのデジタルMRV技術を統合することで、カーボンダイレクトは自社の科学チームによる助言業務とプロジェクト評価サービスを一層強化する狙いだ。
カーボンダイレクトの創業者兼最高経営責任者(CEO)ジョナサン・ゴールドバーグ氏は「パチャマの技術革新を取り込み、当社の科学的専門性と統合することで、実質的な気候インパクトをもたらすインフラを構築する」と述べた。これにより同社は、企業向けカーボン除去戦略の立案からクレジットの品質評価まで、包括的なサービスを提供できる体制を整える。
パチャマの共同創業者でCEOのディエゴ・サエス・ギル氏は、買収後にカーボンダイレクトの戦略担当上級副社長として参画する。「パチャマが築いた透明性と厳密性の文化は、カーボンダイレクトの科学的厳格さと自然に合致する」と述べ、「この統合により、企業が気候目標を達成するための支援をさらに加速できる」と強調した。
今回の買収により、カーボンダイレクトは以下の戦略的分野での優位性を確立する。
- データ駆動型のプロジェクト評価により、ボランタリーカーボンクレジット市場(VCM)の品質と信頼性を高める。
- dMRVツールを通じて、クレジット購入企業やプロジェクト開発者への透明性を拡充する。
- 自然由来のCDRソリューションへのアクセスを拡大し、検証可能な気候効果を求める企業・規制需要の高まりに対応する。
- 科学・技術・自然の交点でイノベーションを推進し、ネットゼロ経済への移行を後押しする。
カーボンダイレクトは2020年設立の比較的新しい企業だが、70人以上の科学者と市場専門家を擁し、マイクロソフトやJPモルガン・チェースなど150社超に助言してきた。これまでCO2除去(CDR)技術の評価、炭素測定、クリーン電力導入支援などを手がけている。
一方、2018年創業のパチャマは、衛星データとAI解析を用いた森林炭素クレジットの検証技術で注目を集め、VCMにおけるデジタルMRVの先駆けとなってきた。近年、森林プロジェクトの信頼性をめぐる批判が相次ぐ中、同社の技術は「透明性と実効性の回復手段」として業界内で評価されている。
今回の統合により、カーボンダイレクトは科学的根拠に基づくカーボンクレジット品質評価とデジタル監視技術を組み合わせ、VCM全体の透明性と信用を底上げする。両社は「科学とデータによる新たな標準づくり」を共通目標に掲げており、今後、森林系CDRの品質基準策定にも影響を与える可能性がある。
参考:https://www.carbon-direct.com/insights/carbon-direct-acquires-pachama