ブータン政府は24日、パリ協定に基づく第三次国別削減目標(NDC 3.0)を発表し、「永久に炭素中立を維持する」との国家方針を改めて表明した。発表は王立ハイランド・フェスティバル会場(ラヤ村)で行われ、ツェリン・トブゲイ首相が環境・天然資源省(MoENR)と国連開発計画(UNDP)ブータン事務所の協力のもと登壇した。新NDCは2035年までを対象とし、炭素吸収源である森林や土地の吸収能力を温室効果ガス排出量が上回らないことを再確認する内容となっている。
トブゲイ首相は「私たちの森林は排出量の6倍の炭素を吸収している。炭素中立はスローガンではなく、意識的で道義的な選択だ」と述べ、「限られた予算を気候レジリエンスに投じることは、未来世代への責務だ」と強調した。
経済全体の脱炭素化 再エネ25,000MW計画と炭素市場の活用
第三次NDCでは、エネルギー、農業、森林、産業、廃棄物など全分野を対象に温室効果ガス削減の長期戦略(LTS 2025)を統合。2040年までに再生可能エネルギー設備容量を25,000MWに拡大する計画を掲げた。さらに、電動モビリティやエネルギー効率化、サーキュラーエコノミーの導入を進める方針だ。
ブータンは炭素市場における国際協力(パリ協定第6条)にも積極的で、2023年に制定した「ブータン・カーボンマーケット規則」や「国家カーボンレジストリ」、2025年発効予定の「カーボンマーケット政策」により、高い信頼性を持つクレジット取引の仕組みを整備。気候基金「ブータン・クライメート・ファンド」や「グリーン・ファイナンス・タクソノミー」を通じ、低炭素プロジェクトへの資金動員を拡大する。
適応策と「損失と被害」への対応
気候適応策では、水資源、農業、健康、生物多様性など7分野に重点を置き、2023〜2038年の総予算を140億ドル(約2兆2,000億円)と見積もる。森林管理や流域保全を通じて炭素吸収と水資源保全を両立させる「緩和と適応の相乗型プロジェクト」を推進する方針だ。
今回初めて「損失と被害(Loss and Damage)」の概念を明記し、氷河湖決壊洪水(GLOF)や山火事、干ばつなど適応を超える被害への対応強化を表明。損失・被害対応基金(FRLD)やサンティアゴ・ネットワーク(SNLD)からの支援を求め、被害データの集中管理や回復支援体制の構築を進める。
包摂的な社会設計と「幸福経済」哲学の融合
NDC策定過程では、政府、企業、市民社会、若者、女性、障害者など多様な主体が協議に参加。気候教育や若者の意思決定参画を重視し、「国民総幸福量(GNH)」理念に基づく社会的包摂を柱とする。これらの施策は第13次五カ年計画や「10X国家経済ビジョン2050」に組み込まれる見通しだ。
国際連帯の呼びかけ COP30での提出へ
ブータン政府は「自国の排出責任を超えて努力している」とし、今後の炭素中立維持と損失・被害対応には「国際的な技術支援と資金協力が不可欠」と訴えた。ブータンの第三次NDCは、ブラジル・ベレンで来月開催されるCOP30で国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局に提出される予定である。