アマゾン、炭素市場を大幅拡張 サプライヤーの物流排出削減へ「カーボンインセット」導入

村山 大翔

村山 大翔

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米アマゾン・ドット・コム(Amazon.com)は2026年2月19日、サプライヤーの脱炭素化を加速させるため、独自の炭素クレジット・マーケットプレイスを拡充したと発表した。

物流における低炭素燃料の「インセット(中取り込み)」や、メタン等の「超汚染物質」を対象とした新たなカーボンクレジットを導入。2040年までのネットゼロ達成に向け、自社のみならずサプライチェーン全体の排出量(Scope3)削減を強力に推進する。

物流燃料の「インセット」と「超汚染物質」への対応

今回の拡張により、アマゾンのリソース拠点「アマゾン・サステナビリティ・エクスチェンジ(Amazon Sustainability Exchange)」を通じて、新たに2種類のカーボンクレジットが提供される。

低炭素燃料インセット・クレジット

再生可能ディーゼルやバイオディーゼルの導入を支援する仕組みだ。物理的にクリーン燃料を調達できない地域にいるサプライヤーでも、カーボンクレジット購入を通じて燃料の低炭素化プロジェクトに投資することで、自社の物流に伴う排出削減分として計上できる。今後は船舶用燃料への拡大も計画されている。

超汚染物質無害化カーボンクレジット

二酸化炭素(CO2)の数百倍から数千倍の温室効果を持つメタンや代替フロン(HFCs)などの「超汚染物質」を対象とする。老朽化した機器からの漏洩防止や破壊処理を支援し、気候変動への即効性の高い対策を狙う。

サプライヤーを含めたScope3削減への圧力

アマゾンの総排出量の大部分を占めるのは、製造や配送を担うサプライヤーによる「Scope 3」だ。同社は2019年に「気候変動対策に関する誓約(The Climate Pledge)」を創設し、パリ協定より10年早い2040年までのネットゼロを掲げているが、その達成にはパートナー企業の協力が不可欠となっている。

今回のプログラムは、排出削減が技術的・コスト的に困難な「ハード・トゥ・アベート」セクターとされる貨物輸送や産業用冷却分野に焦点を当てている。標準化された高品質なクレジットへのアクセスを提供することで、中小規模のサプライヤーでも国際基準に沿った脱炭素化に取り組みやすくする狙いがある。

森林保護から大気直接回収まで

アマゾンはこれまでも炭素市場の健全化を主導してきた。2021年には熱帯雨林保護のために10億ドル(約1,500億円)以上を投じる「LEAF連合(LEAF Coalition)」を共同設立したほか、2023年には大気直接回収(DAC)技術を持つカーボンキャプチャー(CarbonCapture Inc.)への出資も行っている。

同社の戦略は、自社事業の効率化を最優先としつつ、削減しきれない残余排出に対して高品質なクレジットを組み合わせる「科学的根拠に基づいたアプローチ」を徹底している。今回のインセット導入は、クレジットを「外部のオフセット」としてだけでなく、「自社のバリューチェーン内での直接的な削減」として統合しようとする市場の最新トレンドを反映したものだ。

ボランタリーカーボンクレジット市場(VCM)は近年、透明性や「追加性(その投資がなければ削減が実現しなかったか)」の欠如が批判の対象となってきた。これに対しアマゾンは、第三者機関による厳格な検証を義務付けており、以下の基準を厳守している。

  • 追加性:気候融資がなければ実現しなかった削減であること。
  • 正確な推計:効果を過大評価せず、最新の科学的知見で測定すること。
  • 社会的便益:先住民族の権利保護や生物多様性への寄与を含むこと。

アマゾンは、10万台の電気配送バンの導入や、40ギガワット(GW)を超える再生可能エネルギーへの投資(米国1,200万世帯分以上に相当)と並行して、このカーボンクレジット市場を拡大させていく。特に航空・海運分野の燃料転換は世界的な課題であり、アマゾンが「アンカー・バイヤー(主要な買い手)」として市場を牽引することで、低炭素技術のコスト低減が期待される。

アマゾンの今回の動きは、単なる「環境貢献」ではなく「サプライチェーン管理の標準化」である。日本の中小企業を含むサプライヤーにとって、今後はアマゾンのプラットフォームを通じてカーボンクレジットを購入し、排出量を相殺・削減することが「取引継続の条件」となる可能性が高い。特に「インセット」という概念は、日本の物流・製造業においてもScope3対策の強力なツールとなるため、早期の動向把握と活用検討がチャンスに直結するだろう。

参考:https://www.aboutamazon.com/news/sustainability/amazon-carbon-credit-decarbonization-sustainability