炭素除去(CDR)投資会社のアルティチュード(Altitude)は12月16日、バイオ炭プロジェクト開発のアルコム(Alcom)と提携し、インドおよびフィリピンの施設から36万トン以上のCDRクレジット(CO2除去証書(CORCs))を購入する契約を締結したと発表した。アジア市場におけるバイオ炭由来のカーボンクレジット取引としては今年最大級の規模となり、高品質なCDRクレジットの争奪戦が加速している現状を浮き彫りにした。
Puro.earth認証を見据えた長期オフテイク
今回の契約に基づき、アルティチュードはアルコムが運営するインドとフィリピンのバイオ炭生産施設から、将来発行される36万トン超のCDRクレジットを引き受ける。最初の引き渡しは2026年に開始される予定だ。
対象となるカーボンクレジットは、ナスダック傘下のCDR認証プラットフォームであるピュロアース(Puro.earth)または同等の厳格な基準を持つレジストリを通じて発行される「CO2除去証書(CORCs)」となる見込みである。これにより、追跡可能性と永続性が担保された高品質なCDRクレジットとしての価値が保証される。
アルコムの施設では、高度な熱分解(パイロライシス)技術を用いて農業残渣を炭化させ、バイオ炭を生成する。このプロセスにより、本来廃棄または焼却されて排出されるはずだった炭素を数百年以上にわたり土壌に固定化できるほか、土壌改良剤として農作物の生産性向上にも寄与するという。
資金供給と地域経済への波及
アルティチュードにとって、今回の契約は欧州や米州でのプロジェクトに続く、アジア地域での大規模なコミットメントとなる。同社は開発事業者に対し、長期のオフテイク契約を提供することで、プロジェクトの資金調達とスケールアップを支援する戦略をとっている。
アルティチュードのCEO、ダニエル・ベンジャミン・シュルツ氏は次のように述べた。 「アルコムとの合意は、CDRの規模拡大に向けた協力的なパートナーシップの新たな一歩だ。フィリピンとインドという極めて重要な地域において、高品質なバイオ炭プロジェクトからCORCsを調達することで、我々は重大な廃棄物管理の問題解決と経済成長に貢献する」
また、アルコムの創業者兼CEOであるプラティーク・ティワリ氏と、カーボン担当ディレクターのシッダース・カウル氏は、この提携が検証済みの炭素除去能力の展開を加速させると同時に、農村地域に経済的価値をもたらすマイルストーンであると強調した。
日本企業が注目すべき「アジア×バイオチャー」の可能性
今回のニュースは、一企業の調達話にとどまらず、日本企業にとっても重要な示唆を含んでいる。
第一に、アジアでのバイオ炭開発の本格化。これまで欧米主導だったCDRプロジェクトだが、農業残渣が豊富なインドや東南アジアはバイオ炭の適地として注目されており、実際に日本のスタートアップなども進出を進めている。日本企業にとって地理的に近いこれらの地域で、高品質なカーボンクレジットが大規模に生成され始めていることは、自社のオフセット調達や、JCM(二国間クレジット制度)のような枠組みでのプロジェクト組成において大きなチャンスとなり得ます。
第二に、早期オフテイクによる囲い込み競争。2026年開始のカーボンクレジットに対し、すでに36万トン規模の契約が成立しています。高品質なCDRは世界的に供給不足が予測されており、アルティチュードのような専門ファイナンシアーが「青田買い」を進めています。脱炭素目標を持つ日本企業が「必要な時に買えばいい」と考えていると、将来的に調達コストの高騰や在庫不足に直面するリスクがあります。
開発リスクを許容しつつ、早期に長期契約を結ぶことで価格を固定し、安定調達を図るという戦略が、今後はより重要になってくるでしょう。
参考:https://www.altitudecarbon.com/news/altitude-partners-with-alcom

