巨額投資が不可欠 AlliedOffsets報告書が示す「炭素除去とサーキュラリティ」市場の拡大構図

村山 大翔

村山 大翔

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英ロンドンのデータ企業アライドオフセット(AlliedOffsets)は10月28日、世界の気候目標達成に向けた炭素除去(CDR)市場の展望をまとめた最新報告書を公表した。報告によれば、2050年までに年間5〜22ギガトンのCO2除去が必要となり、実現には最大5兆8,000億ドル(約890兆円)規模の累積投資が求められるという。同社は同時に「サーキュラリティ(循環性)」分野を新たに設け、廃棄物処理と資源循環を軸としたカーボンクレジット創出を強化する方針を示した。

報告書「Carbon Removal Market Outlook(2025年10月版)」は、60本以上の学術研究を分析し、バイオ炭やバイオマス貯留、岩石風化促進、バイオエネルギー炭素回収・貯留(BECCS)などの技術が、2050年までに世界全体の除去量の約半分を担う可能性が高いと指摘した。

これら技術の平均除去コストは1トン当たり約160ドル(約2万4,600円)と算定されており、深い排出削減が並行して進む前提での試算となっている。低需要シナリオでも総投資額は1兆2,200億ドル(約187兆円)に達する見込みで、高需要シナリオではその約5倍に膨らむ。

米コンサルティング大手マッキンゼー・アンド・カンパニー(McKinsey & Company, Inc.)は、2030年までに「耐久性の高い炭素除去クレジット」の需要が最大1億トンに達すると予測しているが、2050年に必要とされるギガトンスケールから見ればごく一部にすぎない。国際エネルギー機関(IEA)も、CDR拡大には「長期的な需要確実性」が不可欠であり、政府による前払い契約や標準設定の強化が鍵になると強調している。

アライドオフセットのデータ責任者マックス・デニフ氏は、「政策的な明確性がなければ市場需要は停滞し、多くの除去技術は依然として高コストのままだ」と警鐘を鳴らした。

同社は同日、廃棄物削減と資源循環を新たな炭素クレジット源とする「サーキュラリティ部門」をダッシュボード上で公開した。メタン削減やリサイクルを通じて温室効果ガスの排出を抑えるプロジェクトを体系的に整理し、資金流入を促す狙いがある。

報告によれば、廃棄物分野のカーボンクレジット価格は2025年初から下落傾向にあり、現在は1トン当たり約4.5ドル(約690円)と、全体平均の4.9ドルをやや下回る水準にある。地域別では米国が最も多く286百万件超のカーボンクレジットを「リタイア(使用済み)」しており、欧州主要国や豪州がこれに続く。

一方、メタン関連プロジェクトでは、2025年の平均クレジット価格が前年同月比35.6%増の5.67ドル(約870円)に上昇。廃棄物由来のメタン排出は世界全体の約4分の1を占めており、同社データによると、2025年にはメタン関連プロジェクトのリタイア件数が478万件に達した。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2027年に短寿命気候汚染物質(SLCP)に焦点を当てた報告書を予定しており、メタン削減は今後数年の主要課題とされる。デニフ氏は「サーキュラリティはCO2とメタンの双方を削減する最も即効性のある手段だ」と述べた。

同社が新設したサーキュラリティ部門は、エネルギー・森林・廃棄物に続く第四の気候行動領域として、カーボンクレジット市場の多様化と「循環型脱炭素経済」の構築を目指している。

参考:https://blog.alliedoffsets.com/alliedoffsets-launches-new-circularity-carbon-credit-sector-in-their-dashboard-as-waste-treatment-emerges-as-a-key-lever-for-global-cooling