CO2回収率99%の低炭素水素製造へ 仏エア・リキードらがシンガポールで「ATR技術×CCS」開発協定

村山 大翔

村山 大翔

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産業ガス世界大手の仏エア・リキード(Air Liquide)のシンガポール法人と、化学・エネルギーソリューション大手のアスター・ケミカルズ・アンド・エナジー(Aster Chemicals and Energy Pte. Ltd.、以下アスター)は11月24日、炭素回収(CCS)機能を統合した自動熱分解(ATR)装置の開発に向けた覚書(MOU)を締結した。最大99%という高い二酸化炭素(CO2)回収率を実現することで、シンガポールの脱炭素戦略の中核となる低炭素水素の供給網構築を目指す。

CCS統合型水素製造の新モデル

今回の合意により、両社はシンガポール国内において、大規模な低炭素水素製造プロジェクトの技術的・商業的な実現可能性の評価を開始する。プロジェクトの核心は、エア・リキードが保有する「自動熱分解(ATR)」技術と、高度な炭素回収・貯留(CCS)技術の統合にある。

従来の天然ガス改質による水素製造は多量のCO2を排出する課題があったが、今回のプロジェクトで導入されるATRプロセスはエネルギー効率が高く、かつCCSを組み合わせることでプロセス由来のCO2排出量の最大99%を回収可能とする。これにより、実質的な「低炭素水素(ブルー水素)」の製造が実現し、化学製造やエネルギー集約型産業の排出削減に直接寄与することになる。

両社の役割と戦略的背景

本提携では、世界ですでに30基以上のATR導入実績を持つエア・リキードが技術的知見を提供し、アスターが既存の精製・石油化学インフラと東南アジア地域での市場ネットワークを提供する。

エア・リキード・シンガポールのCEO、ティナ・ローク氏は、同社の世界的なCCSおよびATR導入実績に触れ、次のように述べた。 「この協力関係は、産業パフォーマンスを向上させ、シンガポールの野心的な気候目標に貢献する革新的なガスソリューションを提供するという、我々の献身を強調するものである」

また、アスター・グループのCEO、アーウィン・シプトラ氏は、既存インフラへの技術統合の意義についてこう強調した。 「エア・リキードと提携し、高度なATR技術を活用することで、当社の統合インフラの効率と信頼性を強化する低炭素水素を供給することを目指す。この協力は、排出削減が困難なセクターにおける脱炭素化の道筋を加速させるものだ」

シンガポールの国家戦略との整合性

シンガポール政府は2022年に発表した「国家水素戦略」において、水素を脱炭素化の不可欠な燃料と位置づけている。同国は2050年までのネットゼロ達成を掲げており、今世紀半ばには電力需要の最大半分を水素で賄う試算を示している。

今回のプロジェクトが実現すれば、輸入天然ガスへの依存度を下げつつエネルギーミックスを多様化し、同国のクリーンエネルギー技術への投資誘致を後押しする「アンカープロジェクト」となる可能性がある。また、需要急増が見込まれる東南アジア全域における低炭素水素製造のテンプレートとなることも期待される。

参考:https://sg.airliquide.com/air-liquide-and-aster-sign-mou-collaborate-low-carbon-hydrogen-production-singapore