地元の反発と商業的課題から、海洋アルカリ強化計画を断念
海洋炭素除去技術(mCDR)を開発する英Planetary Technologies社は11日、イギリス・コーンウォール州セント・アイヴス湾で予定していた海洋アルカリ強化(OAE)プロジェクトを中止すると発表した。中止の理由として「商業的実現可能性の欠如」を挙げている。
同社は、下水処理施設から放出される処理水に希釈した水酸化マグネシウムを添加し、海水に導入することで海洋酸性化を緩和し、同時に大気中のCO2を海水に固定化する技術の実証を計画していた。対象施設は水道会社South West Waterが運営するヘイルの処理場だった。
しかし、地元住民や自然保護団体から生態系への懸念が相次ぎ、2023年には300人超が抗議活動を行うなど、社会的な受容性の壁に直面していた。アザラシ保護団体「Seal Research Trust」や「Cornwall Carbon Scrutiny Group」は、安全性を評価するための閉鎖水域での事前試験や、より厳格な調査体制を求めていた。
セント・アイヴス選出のアンドリュー・ジョージ議員は、「基礎データが不完全であり、比較対象となる海域も適切ではなかった」として、試験実施への慎重姿勢を示していた。対象とされた海洋生物が当該時期に不在だったことも指摘され、科学的根拠の不足が批判を招いていた。
今回の中止決定について、ジョージ議員は「地域と海洋環境、そして経済にとって妥当な判断」と評価している。Planetary社も、これまでの協力者や地域住民に感謝の意を示しながら、本件を公式ウェブサイト上で「過去のプロジェクト」と位置付けた。
海洋アルカリ強化は、大規模なカーボンリムーバル手法として期待されてきたが、社会的受容性と環境安全性の確保が今後の課題として浮き彫りになった格好だ。