ボランタリーカーボンクレジット市場(VCM)は、企業や自治体が温室効果ガスの排出を自主的に相殺する手段として拡大してきました。しかし2022年以降、市場は急速に冷え込み、多くの取引が停滞しています。
本コラムでは、エコシステムマーケットプレイス(EM)による「2025 State of the Voluntary Carbon Market (SOVCM)」をもとに、市場の現在地を整理し、今後の展望について考察します。
要点整理
- 取引量は前年比25%減だが、価格下落は5.5%にとどまる
- 炭素除去型クレジットの価格は排出削減型の3.8倍に上昇
- 高品質クレジットへのシフトが顕著、認証制度の影響も
- クレジットの「償却」は安定的で、企業の削減意欲は継続
- 質の高いプロジェクトが市場を牽引する傾向が明確化
ボランタリーカーボンクレジット市場は量より質の時代へ
2024年の取引量は前年比25%減の8,440万tCO2eとなり、2018年以来の低水準となりました。しかし平均価格は6.34ドル/tCO2eと、5.5%の下落にとどまりました 。これは、質の高いクレジットへの選別的な需要が維持されていることを意味します。
背景には、市場の信頼性を回復しようとする動きがあります。特にICVCMが策定した「コアカーボン原則(CCPs)」の影響が大きく、一部の認証済プロジェクトに対しては、価格が35%上昇するなど市場の評価が変化しています 。
除去系カーボンクレジットへの期待高まる
2024年に取引されたクレジットのうち、除去系(リムーバル)クレジットは全体の5%に過ぎませんが、その平均価格は19.5ドルと、削減系(リダクション)クレジットの4.05ドルの約4.8倍となっています 。
最も取引が活発だったのは、森林再生(ARR)やアグロフォレストリーといった自然由来の除去系プロジェクトです。特にARRは、除去クレジットの99%を占め、市場における存在感が増しています 。
高信頼・高単価への集約
森林・土地利用系の取引量は前年と同水準でしたが、内部では動きがありました。REDD+の取引量は52%減少し一方で、改良型森林管理(IFM)は3倍以上に急増。IFMの価格も平均14.97ドルと、市場平均を大きく上回っています 。
一方、再生可能エネルギー系プロジェクトの信用は低下傾向にあり、取引量は23%減、価格も32%下落しました 。
クレジットの「償却」は安定、市場の成熟を示唆
発行後に使われ市場から消える「償却」クレジット数は2024年も1.82億tCO2eでほぼ横ばいです 。企業は慎重になりながらも、依然として排出削減の手段としてボランタリーカーボンクレジットを活用しており、市場の信頼回復が進んでいることを示しています。
信頼性と透明性の確保が鍵
2024年は、ICVCMによる初の正式な認証プロジェクトCCPsが市場に登場した転換点の年でした。しかし、認証に要する期間や適用対象の限界から、供給拡大には時間を要します 。
それでも、取引量が落ち込む中でも価格が下がり切らないという事実は、市場が量から質へのシフトを受け入れつつある証拠です。今後のVCMの発展には、透明性と信頼性を両立させる仕組みの整備が不可欠です。
2025年のボランタリーカーボンクレジット市場の現状を概観し、取引量の減少が必ずしも需要の減退を意味しないこと、また市場が質を重視する成熟段階に入っていることを明らかにしました。今後は、信頼性の高いクレジットの拡充と、それを支える制度・評価手法の整備が市場成長のカギとなるでしょう。
参考:https://www.ecosystemmarketplace.com/publications/2025-state-of-the-voluntary-carbon-market-sovcm/