英・スウェーデンがバルト海に巨大CO2輸送網を構築へ 「Highway58」で産業脱炭素化を加速

村山 大翔

村山 大翔

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英低炭素インフラ開発のプログレッシブ・エナジー(Progressive Energy)とスウェーデンのパイプ58(Pipe58 AB)は2026年1月27日、バルト海地域における炭素回収・利用・貯留(CCUS)の展開を加速させる共同事業「Highway58」の推進に向けた基本合意書(MoU)を締結した。

同プロジェクトは、国境を越えた共有インフラとして1,000キロメートル(km)超の海底パイプラインを構築し、北欧・バルト海域の産業排出源と永久貯留サイトおよびe-Fuel(合成燃料)製造拠点を結ぶものである。

両社は今後、産業界のステークホルダーや政策立案者、規制当局と連携し、計画を早期の構想段階から銀行融資可能なインフラ事業へと進展させる。Highway58は、バルト海周辺の複数の国や産業セクターからの排出を集約することで「規模の経済」を働かせ、個別の企業では困難だった大規模な二酸化炭素(CO2)輸送・貯留の障壁を下げる狙いがある。

第1フェーズの計画では、年間約2,000万トンのCO2輸送能力を見込んでおり、2030年代初頭の稼働開始を目指している。

北欧諸国、特にスウェーデンやフィンランドでは、排出されるCO2の約3分の2がバイオ由来(ビオジェニック)であり、これを回収・貯留するBECCSを通じて炭素除去(CDR)を実現する潜在能力が極めて高い。

プログレッシブ・エナジーのディレクターであるデビッド・パーキン(David Parkin)氏は、英国のハイネット・ノースウエスト(HyNet North West)やピーク・クラスター(Peak Cluster)といった産業クラスター開発を主導した経験に触れ、「英国での実績とHighway58には明確な類似点があり、その知見を商用化に向けた次のフェーズに注入したい」と述べた。

また、パイプ58の最高経営責任者(CEO)であるヨハン・ベックマン(Johan Beckmann)氏は、同プロジェクトが技術的・戦略的な基盤を強化し、バルト海地域をカーボンマネジメントの新たなハブとして位置づける上で決定的な役割を果たすと指摘した。北欧炭素除去協会(NCRA)の試算によると、北欧地域は2050年までに年間最大1億6,000万トンの炭素除去を提供できる可能性があり、これは域内の国内総生産(GDP)に170億ユーロ(約2兆7,200億円)の貢献をもたらすと予測されている。

今後の焦点は、インフラの技術的設計の精緻化とともに、EUおよび各国の気候政策に沿った規制承認の獲得へと移る。バルト海全域におよぶ広域パイプライン網の構築は、直接的な電化が困難なハード・トゥ・アベート(削減困難)部門の脱炭素化を支える屋台骨として、欧州全体のネットゼロ目標達成に向けた試金石となる。

今回の提携は、北欧における「炭素のロジスティクス」が、単なる排出削減の手段から、巨大な経済圏を生むインフラビジネスへと昇華したことを象徴している。特に注目すべきは、BECCSによるネガティブ・エミッション(炭素除去)を前提とした収益モデルの構築だ。

輸送パイプラインという「共通の背骨」ができることで、これまで立地条件に縛られていた中規模の産業排出者も高品質なカーボンクレジット創出市場に参入しやすくなる。

日本企業にとっても、マレーシアや豪州で進めるCCS事業において、こうした「複数国・複数企業による相乗り型インフラ」の運営モデルは、コスト競争力を高めるための重要なベンチマークになるだろう。

参考:https://www.progressive-energy.com/news/baltic-co2-infrastructure-development-strengthened-with-uk-ccus-system-design-expertise/