英国のエネルギー企業であるエベロ・エネルギー(Evero Energy)は2025年12月22日、同国のバイオエネルギー炭素回収・貯留(BECCS)プロジェクト「インベックス(InBECCS)」が、炭素除去(CDR)の国際的な登録機関であるプロ・アース(Puro.earth)に正式登録されたと発表した。
これは英国のBECCSセクターとして初の事例であり、同国政府の「温室効果ガス除去(GGR)」ビジネスモデル下で運営される初の商業施設として、高品質なカーボンクレジットの供給を目指す。

本プロジェクトは、チェシャー州のインス・バイオマス発電所を拠点とし、年間約21万7,000トンのバイオ由来二酸化炭素(CO2)を回収・貯留する計画である。回収されたCO2は、イングランド北西部のハイネット・クラスター(HyNet Cluster)が提供する輸送・貯留インフラを通じて地中に永久貯留される。同時に、10万世帯以上の需要を賄うクリーンエネルギーの供給も継続する。
エベロ・エネルギーの最高経営責任者(CEO)であるエリオット・レントン(Elliot Renton)氏は、「プーロ・アースへの登録は、インベックスが炭素除去の機会として強力かつ準備が整っていることを示す重要なシグナルだ」と述べた。同氏はさらに、国内由来の廃棄木材と炭素回収・利用・貯留(CCUS)技術を組み合わせることで、現在の廃棄物を将来のエネルギーと気候変動対策へと転換できると強調した。
プーロ・アースの「フューチャー・ファシリティ」プログラムへの登録により、本プロジェクトは自主的炭素市場(VCM)の購入者に対して高い透明性を確保する。今後、施設が稼働すれば、測定・報告・検証(MRV)が可能な「耐久性の高い炭素除去クレジット」が発行される。これは、ネットゼロ達成のために高品質なクレジットを求めるグローバル企業からの需要に応えるものだ。
プーロ・アースの最高成長責任者(CGO)であるトレントン・スピンドラー(Trenton Spindler)氏は、「予備調査の合格は、プロジェクトが厳格な基準に合致していることを証明するものだ」と指摘した。同氏は、早期段階での透明性確保がオフテイク契約(先行購入契約)の交渉や資金調達を促進し、英国のエンジニアリングによる炭素除去産業のベンチマークになるとの見解を示した。
英国政府は2025年8月、本プロジェクトを初の商業用BECCS施設として交渉対象に選定しており、今回の登録は民間市場と政府支援の両面で事業の信頼性を裏付ける形となった。今後は、政府との最終的な事業モデルの合意を経て、設備の建設と2020年代後半の本格稼働に向けた手続きが進められる見通しである。
今回のニュースは、英国が「点」としてのBECCS技術開発から、市場取引を前提とした「線」の産業形成へと移行した象徴的な動きと言える。
特に注目すべきは、英国政府の支援制度(GGRビジネスモデル)と、民間主導のプーロ・アースという「公私二段構え」でプロジェクトの経済性を担保しようとしている点だ。
これまでBECCSは「持続可能なバイオマス燃料の確保」という課題から、森林保護団体などからの批判にさらされやすい側面があった。しかし、エベロ社が廃棄木材(Waste Wood)に限定した原料調達を明確にし、プーロ・アースの厳格な基準をクリアしたことは、日本のJ-クレジットや国内のBECCS事業検討者にとっても、「クレジットの信頼性(インテグリティ)をどう担保すべきか」という問いに対する一つの明確な回答になるだろう。
今後は、ハイネット・クラスターのような地域横断的なインフラ整備が、事業化のスピードを左右する鍵となる。


