カーボンクレジット制度設計の核心に迫る、デリバティブの定義から登録簿の統合、国際的な法的統一性まで

村山 大翔

村山 大翔

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金融庁カーボンクレジット取引インフラ検討会解説シリーズ

第6回パート2

報告書素案の説明を受けた第6回検討会後半では、メンバーから法律・会計・決済インフラ・顧客保護の各論点が次々に提示された。議論のエッセンスを時系列でたどりつつ、市場拡大に向けた課題と解決の糸口を整理する。

デリバティブの定義を精査すべき

まず、報告書素案10〜11ページで「現物引渡し」に限定されているとされる海外のクレジット・デリバティブ取引の扱いが着目され、「反対売買による差金決済が不能なら先渡し契約の範疇ではないか。実務で現物決済を義務づける取引所が本当に差金決済を許容していないのか再確認が必要だ」と疑義が呈された。

この問いは、カーボンクレジットの価格指標を用いるキャッシュ・セトル型先物(CME上場指数など)をどう位置づけるかという制度設計上の論点である。

続いて、ベストプラクティス共有の具体策に踏み込み、「金融機関がボランタリーカーボンクレジットを販売する場面で、説明義務の水準をどう揃えるか。競争法と情報共有の緊張関係を乗り越える横断的な対話の場が不可欠だ」と強調した。

さらに、法的性質・会計上の整理では、

  • UNIDROITで進む国際的議論との調和
  • 譲渡・対抗要件を巡る理論整理が決済インフラ設計の前提
  • 将来の金融規制(業規制・行為規制)に結びつく可能性

を指摘。最後にデリバティブ規制の必要性に言及し、「素案の法的な整理は規制導入を含意するのか。将来的な制度化を視野に入れるべきだ」と提案された。

顧客保護と過度規制回避のバランス

メンバーは「黎明期に過度な規制を敷けば需給拡大を阻害しかねない」と警鐘を鳴らした。
他方で金融機関が仲介者となる際には「適合性に応じた説明責任と統一的ルールが市場信頼の前提」と述べ、ベストプラクティスを集約し参照すべき1カ所を明示する必要性を強調。規制は段階的・柔軟に整備すべきだと訴えた。

決済インフラはAPI連携から、登録簿統合を展望

デリバティブ決済の議論では「満期現物受渡しと差金決済型指数先物の併存を明記すべき」と指摘したうえで、決済リスク低減策に焦点を当てた。

国債・株式のような高頻度取引とは異なるカーボン市場の特性を踏まえ、まずは、

  • 登録簿と決済システムのAPI連携による自動化
  • 資金決済とクレジット移転情報のデジタル統合

を優先課題と位置づけた。さらに、現状バラバラに存在するJ-クレジットJCMなど複数登録簿を「一元的レジストリ」へ統合し、データ・パラメーター共通化を図る将来像を提案した。

需要面の分類では、素案が並列した「カーボンオフセット目的」と「投資目的」の表現に違和感を示し、「コンプライアンス目的を明示したうえで、流動性供給としての在庫保有を投資と整理した方が実情に即す」と具体的な書き換えが提案された。決済リスクの表記も「カウンターパーティーリスクを含む決済リスク全般」と修正が求められた。

情報開示の「鏡」構造と会計指針

登録簿・仲介者・取引所の三層構造については「買主が意思決定に必要とする情報が十分かを照合する鏡として整理すべきだ」と主張された。買主開示との呼応を明確化することで、情報のミスマッチを防げるとの見立てだ。

法的性質・会計整理では、日本公認会計士協会の研究報告17号を参照し「排出量取引制度に留まらずボランタリーカーボンクレジット独自の会計論点を深掘りすべき」と提案。さらにISSB/SSBJ基準に基づく純量目標という言葉を用い、「カーボンオフセット後の数値」より正確に規定すべきだと補足した。

論点の収斂と今後の宿題

議論を通じて浮かび上がったキーワードは、

  • デリバティブの差金決済可否と規制導入の可否
  • ベストプラクティス共有の仕組み(競争法リスクを踏まえた横断的フォーラム)
  • 法的性質の国際統一性と譲渡・対抗要件の明確化
  • 統合レジストリとAPI連携による決済自動化、RTGS対応の検討
  • 買主視点に立った情報開示の十分性と“純量目標”概念の導入
  • コンプライアンス需要を含めた需給分類と流動性供給モデル

である。素案を最終化する2025年5〜6月の過程で、これらの修正・追補が焦点となる見込みだ。

黎明期市場のルール・フォーミング

カーボンクレジット取引が本格化する前段階で、実務家・規制当局・取引所が「制度を先につくる」フェーズに入ったことが今回の討議で鮮明になった。

法的性質の国際調和、統合登録簿、段階的規制というテーマは、国内市場を越えた競争軸でもある。

参考:金融庁.「カーボン・クレジット取引に関する金融インフラのあり方等に係る検討会」(第6回)議事録.令和7年4月11日

参考:金融庁.「カーボン・クレジット取引に関する金融インフラのあり方等に係る検討会」(第6回)議事次第.令和7年4月11日