第一生命保険は12月22日、オランダのロッテルダム港湾公社(Port of Rotterdam Authority)が発行した、資金使途を二酸化炭素回収・貯留(CCS)に限定した世界初の「カーボン・キャプチャー・アンド・ストレージ・ボンド」へ約47億円(約3,000万ドル)を投資した。
同社はこの債券の最大投資家であり、エイチエスビーシー証券(HSBC Securities)および発行体と協議を重ねて投資を実現させた。欧州最大の物流拠点であるロッテルダム港で進行中のCCSプロジェクト「ポルトス(Porthos)」のインフラ整備を資金面から支援し、産業部門の脱炭素化を加速させる。

今回の投資資金は、ロッテルダム港に集積する製油所や化学工場、ブルー水素製造施設から排出されるCO2を回収し、北海の枯渇ガス田へ恒久的に貯留するプロジェクト「ポルトス」に充当される。同プロジェクトは、複数の企業が共同利用できるオープンアクセス方式の回収・輸送インフラを構築する点が特徴である。稼働後は15年間にわたり、年間約250万トンのCO2を貯留する計画であり、将来的な拡張性も備えている。
ロッテルダム港湾公社の最高財務責任者(CFO)を務めるヴィヴィエンヌ・デ・レウ(Vivienne de Leeuw)氏は「当社の投資の多くはポルトスにおけるCO2パイプライン建設など、排出量の直接削減に寄与している。第一生命との協働により、こうした脱炭素化プロジェクトの実現と将来を見据えた港湾の構築が可能になる」と述べた。また、サステナビリティ・ストラクチャラーを務めたエイチエスビーシーは、資金使途をCCSに特化したこの枠組みが、企業の気候変動対策における新たなファイナンスモデルになると指摘した。
欧州連合(EU)は2030年までに域内で年間5,000万トンのCO2貯留容量を確保する目標を掲げており、CCSは排出削減が困難なハード・トゥ・アベート(Hard-to-Abate)産業にとって不可欠な技術と位置付けられている。
日本国内においても、2024年に成立した「CCS事業法」を背景に、日本エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)などが主導する先進的CCSプロジェクトが進展しており、国内外での官民連携による投資拡大が急務となっている。
第一生命は今回の投資を、環境課題への戦略的対応を示す「グリーン・リーダーシップ(Green Leadership)」の一環と位置付け、安定的な運用収益の確保と脱炭素化への貢献を両立させる狙いがある。同社は今後も持続可能な社会の形成に寄与するため、サステナブル投融資を積極的に推進する方針だ。
次なる焦点は、こうしたCCS特化型金融商品の市場浸透と、それによる二酸化炭素除去(CDR)技術の社会実装に向けたコスト低減の進捗へと移る。
本件は、カーボンクレジットやCDRの文脈において極めて重要な「ファイナンスの専門分化」を示す象徴的なニュースである。
これまでグリーンボンドの枠内では、CCSは再生可能エネルギーなどと比較して不透明さが残る領域だった。しかし、今回のように「CCS債」として資金使途を絞り込む手法が確立されれば、プロジェクトの透明性が高まり、機関投資家の巨額資金が炭素除去インフラへ流れ込む呼び水となる。
日本国内では2030年のCCS事業開始を目指す動きが加速しているが、第一生命のような国内機関投資家が海外の先進事例で実績を積むことは、将来的な日本版CCSファイナンスの基準策定や、国内クレジット制度への技術反映においても大きなアドバンテージとなるだろう。
参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000057.000160816.html


