OECD、カーボンリーケージを「政策ミックス」で抑制 経済協力開発機構が市場メカニズムと技術支援の相乗効果を提言

村山 大翔

村山 大翔

「OECD、カーボンリーケージを「政策ミックス」で抑制 経済協力開発機構が市場メカニズムと技術支援の相乗効果を提言」のアイキャッチ画像

経済協力開発機構(OECD)は2025年12月19日、製造業の貿易を通じたカーボンリーケージに気候変動政策が与える影響を分析した最新の報告書を公表した。

この報告書は、2000年から2020年にかけての49カ国、14の製造セクターを対象とした包括的な実証データに基づき、単独の炭素価格設定が輸入排出量を増加させるリスクがある一方で、技術支援策が供給網のクリーン化を促進することを明らかにしている。

図1:気候政策の厳格化と輸入に伴うCO2量の推移(2000年〜2020年)

国内の排出削減努力をカーボンクレジットの価値やネットゼロ目標の達成に結びつける上で、貿易を通じた排出の「肩代わり」をいかに防ぐかが今後の国際的な論点となる。

炭素税や排出量取引制度(ETS)に代表される市場メカニズムは、国内の排出削減を強力に促す一方で、輸入排出量を押し上げる主要な要因となっている。

分析によれば、市場メカニズムの指標が1単位上昇することは、実効炭素価格が平均で1トン当たり40ユーロ(約6,600円)上昇することに相当し、輸入排出量を8.7%増加させる結果を招いている。これは主に輸入量の増大(規模効果)と、輸入商品の炭素集約度の上昇によるものであり、国内の厳格な規制を避けてより排出基準の緩い国から製品を調達するインセンティブが働いていることを示唆している。

表4:地域貿易協定(RTA)による炭素漏出の増幅効果

これに対し、クリーン技術への研究開発(R&D)支援や金融支援といった技術支援策は、輸入商品の炭素集約度を約3%低下させる効果が確認された。技術支援策は、国内企業が供給網全体をクリーン化する動きを加速させると同時に、先進的な技術が貿易相手国へと波及する「技術スピルオーバー」を引き起こしている。

また、省エネ基準などの非市場型規制も、輸入商品の炭素集約度を2.7%低下させており、これらの政策が実質的にクリーン製品の市場を創出する「デファクトスタンダード」として機能していることが浮き彫りになった。

炭素漏出の影響は国やセクターによって大きく異なり、全カ国・セクターの漏出率の中央値は3%程度と比較的低いものの、平均値は14%に達している。特にアイスランドやコスタリカ、スイスといった小規模な開放経済国では、国内削減量の25%以上が輸入によって相殺されている。

セクター別では、鉄鋼などの基本金属やセメントを含む非金属鉱物製品で30%を超える極めて高い漏出率が記録されており、これらのセクターにおける炭素除去(CDR)技術の導入や、カーボンクレジットによる補完の重要性が高まっている。

報告書は、炭素漏出と競争力の低下を同時に防ぐためには、炭素価格設定と補助金制度を適切に組み合わせた「政策ミックス」が不可欠であると結論づけた。

国境炭素調整措置(CBAM)のような手段は、市場メカニズムによる漏出を1〜15ポイント抑制する効果が期待されるものの、過度な遵守コストがクリーンな貿易フローを阻害しないよう慎重な制度設計が求められる。2025年以降、各国の気候変動政策の乖離が拡大する中で、技術支援を通じた国際的な連携がグローバルな排出削減の質を左右することになる。

参考:https://www.oecd.org/en/publications/how-different-climate-policies-affect-carbon-leakage-through-trade_5819ce91-en.html