ポルトガル政府は12月15日、沿岸部の海草藻場を再生し、貯留された炭素である「ブルーカーボン」をボランタリーカーボンクレジット化する国家プロジェクト「ブルーフォレスト(Floresta Azul)」を正式に開始した。
環境・エネルギー省と農業・漁業省が共同で主導するこの2カ年計画は、同国が掲げる2045年までのカーボンニュートラル達成に向けた中核施策の一つとなる。2025年10月に運用を開始した国内ボランタリーカーボンクレジット市場(VCM)への統合を視野に、海洋生態系の復元を経済的価値へと転換する狙いだ。
同プログラムは、環境・エネルギー省が管理する政府系基金「環境基金(Fundo Ambiental)」から資金提供を受け、今後2年間にわたり実施される。主な活動は5つの柱で構成され、本土全域の海草分布のマッピング、損傷した生態系の物理的修復、再植林用の苗木を供給する専門苗圃(びょうほ)の設置が含まれる。特筆すべきは、海草藻場による炭素吸収量を定量化し、国内市場で取引可能なクレジットを生成するための具体的なメソドロジー(算定手法)の開発を明記した点にある。
環境・エネルギー大臣のマリア・ダ・グラサ・カルヴァーリョ(Maria da Graça Carvalho)氏は「ブルーフォレストは、海洋生態系の保護と修復を政府がいかに優先しているかを示す明確な意思表明だ。海草藻場は生物多様性の維持に加え、ブルーカーボンの捕捉、沿岸の回復力において不可欠な役割を果たす」と述べ、環境基金を通じて修復プロジェクトを全面的に支援する方針を強調した。
また、農業・漁業大臣のジョゼ・マヌエル・フェルナンデス(José Manuel Fernandes)氏は「この取り組みは、国家海洋戦略2021-2030で示された持続可能なブルーエコノミー・モデルを具現化するものだ。海洋生態系の生産性が向上することで、漁業セクターや沿岸コミュニティに直接的な利益がもたらされる」と指摘した。
海草藻場は、大気中から捕捉した炭素の最大95%をその下の堆積物に長期間貯留できる、極めて効率的な「炭素の貯蔵庫」として知られる。ポルトガルでは、2022年に開始された「グルベンキアン・ブルーカーボン(Gulbenkian Blue Carbon)」ロードマップにより、海洋生態系のマッピングと市場形成の基礎が築かれてきた。今回の政府主導の介入は、これらの先行プロジェクトを国家レベルの制度へと昇華させる動きといえる。
今後の運用にあたっては、気候庁(Agência para o Clima)を中心に、自然保護森林研究所(ICNF)やポルトガル環境庁(APA)、大学などの研究機関、環境NGOが連携し、契約ベースでプロジェクトを推進する。2026年末までの2年間で、どれだけの藻場が修復され、どの程度のクレジットが市場に供給されるかが、投資家や排出企業の次なる関心事となる。
今回のポルトガルの動向は、単なる自然保護の枠を超え、「国家によるブルーカーボンの制度化」が加速していることを示唆している。特に注目すべきは、2025年10月の国内VCM開設からわずか2カ月で、具体的な供給源としてブルーカーボンを位置づけたスピード感だ。
日本もJブルークレジット制度においてブルーカーボン(藻場・干潟)の登録が進んでるが、ポルトガルのように政府基金と市場メカニズムを直結させ、かつ「苗圃の整備」というサプライチェーンの川上から国が関与するモデルは、クレジットの供給不足に悩む市場への強力な処方箋となるだろう。
今後は、開発されたメソドロジーが国際的な基準とどう整合性を取るのか、あるいは独自の「ポルトガル・モデル」として純国産クレジットの価値を高めていくのかが、同国の気候変動戦略の成否を分けるだろう。


